■2007(平成19)年7月に中古購入の賃貸アパート経営スタートから2017(平成29)年3月に中学校の教諭を退職するまでの10年間に約1億9千万円に上る副収入を得ていた群馬県のスーパー教師。彼は、その間ずっと教員として勤務していましたが、2016(平成28)年7月ごろから長期休暇を取得し、平成28年12月23日に不動産業等を扱う会社を設立し役員に就任しましたが「任命権者」の許可を得ないまま、翌年3月まで長期休暇・休職をしました。そして退職に当たり、群馬県は彼に1200万円(推定)の退職手当を支払いました。
これはどうみても地方公務員法第38条に定める営利企業への従事等の制限に抵触するのではないか。したがって、退職手当は返還を求めるべきではないのか。そう判断した当会では、2020年8月6日付で住民監査請求に踏み切りました。その監査結果が10月13日付で通知されました。群馬県監査委員の判断は、「まったく問題ない」というものでした。
↑2013年3月16日(土)に横浜で開催された「第4回日中お母さんサミット」に寄せた大木先生のメッセージ。↑
地方公務員法第38条はつぎのとおり定めています。
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(営利企業への従事等の制限)
第三十八条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。ただし、非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員及び第二十二条の二第一項第二号に掲げる職員を除く。)については、この限りでない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。
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すなわち、群馬県では、「任命権者の許可」がなくても、青天井で副業に精を出せるわけです。これはまさしく、「働き方改革の先取り」といってもよいでしょう。群馬県の公務員は、副業届をしなくても、本業で仕事をしているフリをしていれば、どんどん副業で稼ぐことが出来る環境にあり、しかも、長期休暇・休業中に起業して会社を経営する役員に就任しても、これまた「任命権者の許可」を得る必要がなく、役員報酬を自由に得ることができるわけです。まさに、「経済特区」ならぬ「公務員特区」というべき、まことに理想の就業環境に恵まれているのが群馬県の公務員の皆さんです。
実は今回のことに限らず、群馬県の公務員に対する福利厚生制度は極めて充実しています。その極めつけは、特別職だった大澤正明知事の場合、知事公舎に毎週末愛人とともに宿泊を伴う滞在をしていたにもかかわらず、群馬県はフリン知事が配偶者以外の女性と同居をしていたわけではないとして、公舎使用規則違反には当たらないと判断したからです。
しかも、快適に愛人と過ごせるように知事公舎のリフォームに投じた2000万円を遥かに超える公費支出に問題はないとして、当会と最高裁まで争った挙句、群馬県は勝訴しました。そのため、群馬県の職員の皆さんは、公舎や借り上げ住宅を愛人やガールフレンド・ボーイフレンドと一緒に宿泊を伴う滞在が堂々と可能となっています。
■それでは、その画期的な判断を見てみましょう。
*****10/2監査結果*****ZIP ⇒ 20201013misj.zip
群監第202-18号
令和2年10月12日
市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢 様
群馬県監査委員 丸 山 幸 男
同 林 章
同 井 田 泉
同 臂 泰 雄
住民監査請求に係る監査結果について
令和2年8月7日付けで収受した標記請求に係る監査結果は、別紙のとおりです。
群馬県監査委員事務局
特定監査係
TEL:027-226-2767
=====監査結果=====
<P1>
群馬県職員措置請求監査結果
第1 主文
本件措置請求を棄却する。
第2 請求人
市民オンブズマン群馬 代表 小川 賢
第3 請求書の提出
令和2年8月7日
なお、請求人に対し、同月18日に補正を求め、同月26日に補正が行われた。
第4 請求の内容
1 請求の要旨
元教員であるA(以下「本件元教員」という。)は、平成29年3月31日付けで地方公務員(県費負担教職員)を依願退職しているが、在職中の平成19年頃から不動産賃貸業(以下「本件副業」という 。)を営んでいた。その後、本件副業の規模を拡大させ、平成28年には本件副業等を目的に株式会社を設立し、取締役に就任していたにもかかわらず、この期間内にしかるべき副業ないし兼業許可申請やそれに対する所轄庁の長等の承認を得た形跡が見当たらない。これは地方公務員法(昭和25年法律第261号。以下「地公法」という。)第38条(営利企業等の従事制限「所謂副業禁止」)に抵触し、内容的にも、人事院規則14-8に列挙されている項目をはるかに凌駕する悪質なものである。
また、本件元教員は、株式会社を設立した平成28年度は、長期間にわたり休職ないし長期休暇をしていたとみられる。
ところが、群馬 県教育委員会(以下「県教委J という。)ないし群馬県は、平成29年3月末までに本件元教員に違法不当にも退職手当を支払った。
群馬県知事及び県教委は連帯して、本件元教員に支払った退職手当及び遅延損害金を回収するためのあらゆる手段をとるよう、監査委員に勧告を求める。
また、退職金及び遅延損害金の回収を怠る場合、群馬県知事をして、本件元教員を県費負担教職員として任命してきた歴代の群馬県教育委員に対し、連帯して退職金及び遅延損害金を回収せしめるよう、監査委員に勧告を求める。
2 事実証明書(各事実証明書の表題は、措置請求書における請求人の記載をそのまま記載した。ただし、個人名、法人名並びに賃貸アパートの名称及び所在地は、当監査委員にて加筆、記号化した。また、陳述までに請求人から追加提出された資料は、当監査委員において表題を記載し、事実証明書14及び15として付番した。)
(1) 事実証明書1 公務員在職中のアパート賃料および売却損益一覧表
(2) 事実証明書2 株式会社B 登記記録
(3) 事実証明書3 ■■市■■■町■■■■番地の賃貸アパー卜情報
(4) 事実証明書4 ■■市■■■町■■■■■■の賃貸アパート「■■■■■■■■■■」情報
(5) 事実証明書5 ■■市■■■町■■■■■■の賃貸アバート「■■■■■■■■■■」情報
(6) 事実証明書6 ■■市■■■町■■■■■■番地の賃貸アバート情報「■■■■■■■■■■■」(平成27年9月30日売却)
(7) 事実証明書7 ■■■市■■町■■■■■番地の賃貸アパート情報「■■■■■■」(平成29年3月31日売却)
(8) 事実証明書8 ■■市■■■町■■■■■■番地の太陽光発電施設の課税台帳
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(9) 事実証明書9 公文書部分開示決定通知書(副第30094-1号令和2年6月12日)および本件元教員の退職手当に関する部分開示情報
(10) 事実証明書10 公文書不存在決定通知書(学人第1427-4号令和2年7月20日)
(11) 事実証明書11 公文書不存在決定通知書(学人第1222-1号令和2年6月12日)
(12) 事実証明書12 藤岡市情報任意的公開回答書(藤教学第133号令和2年7月29日)
(13) 事実証明書13 公文書の在否を明らかにしない決定通知書(学人第1222-1号令和2年6月12日)
(14) 事実証明書14 事実証明書12における藤岡市役所からの封筒のコピー
(15) 事実証明書15 請求人の推測による本件元教員の退職手当支給額
第5 補正について
1 補正依頼
本件措置請求については、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「地自法」という。)第242条第1項に規定する請求の要件を具備しているかどうか判断するに当たり不明な点が存在したことから、請求人に対し、令和2年8月18日付けで補正依頼通知を送付し、同月26日に補正書が提出された。
2 補正書の内容(当監査委員が補正を求めた事項に対する請求人の回答をまとめたもの)
(1) 請求人としての適格性について
請求人としての適格性を確認するため、団体の主たる所在地が群馬県内にあることが分かる書面、会則及び役員名簿の提出を求めるもの(請求日時点(令和2年8月7日))。
(回答) 住所録(抜粋)、会則及び議事録(役員名簿含む。)が提出された。
(2) 請求期間経過の正当な理由について
地自法第242条第2項により、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは、これをすることができないとあり、ただし、正当な理由があるときは、この限りではないとされている。
本件措置請求は、平成29年3月末に支払われた退職手当の回収を求めていると解されるが、それには、まず正当な理由があることを確認する必要があるもの。
(回答) 令和2年5月20日に本件に係る情報提供が県民から寄せられ、同月29日付けで群馬県知事に対して公文書開示請求書を提出したところ、同年6月16日に部分開示通知に基づき部分開示された資料を見て、支払日が平成29年4月21日に指定口座振り込みで実行されたことを知った。その後、対象職員の当時の勤務校や退職理由など、追加の情報開示請求と部分開示、不開示、在否応答拒否処分を経て、令和2年8月7日に住民監査請求に踏み切った。
第6 請求の受理
本件措置請求において、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した正当な理由の有無については、監査を実施した上で慎重に判断することとし、その他については、地自法第242条第1項に規定する要件を具備しているものと認め、令和2年9月3日に受理を決定した。
第7 監査の実施
1 監査対象事項
教職員の退職手当の支出について
2 監査対象機関
県教委福利課及び学校人事課
3 請求人の陳述及び証拠提出
令和2年9月11日、地自法第242条第7項の規定により、請求人の陳述を聴取した。また、請求人から
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事実証明書14及び15が追加提出された。
4 監査の実施
令和2年9月18日、監査対象機関に対し、監査委員による対面監査を行った。また、これに先立ち監査委員事務局職員による事務ヒアリングを行った。
第8 監査の結果
1 監査対象機関の主張及び説明
(1) 本件元教員について
本件元教員は、県費負担教職員であり、平成29年3月31日に退職した。
(2) 県費負担教職員の任命権等について
ア 任命権:県教委
イ 退職手当の決定(認定)権:県教委
ウ 休職・懲戒の処分権:県教委
エ 服務に関する監督:市町村教育委員会(以下「市教委」という。)
(3) 地公法第38条(営利企業への従事等の制限)について
ア 営利企業従事許可について、任命権者の許可を受けていなかったことが判明した場合の教職員に対する懲戒処分について
県教委懲戒処分指針(以下「懲戒処分指針」という。)における標準的な懲戒処分の種類の中で、「営利企業の役員等の職を兼ね、若しくは自ら営利企業を営むことの承認を得る手続又は報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員等を兼ね、その他事業若しくは事務に従事することの許可を得る手続を怠り、これらの兼業を行った教職員は、減給又は戒告とする」とされている。
なお、退職後に上記事案が発覚しても、退職した者に懲戒処分はできない。
イ 営利企業従事許可の判断基準について
判断基準は特に定めておらず、人事院規則14-8や過去の事例等を参考に個別審査を行っている。請求人の主張する同規則(同規則の運用について)は、副業収入や事業規模ではなく、自営に当たるかどうかの基準であり、自営を行うことによって、教員としての本務に支障がある場合は、許可はできないと考える。例えば、アパート経営で管理運営会社等に委託している場合については、許可される可能性が高いが、自営業の業務内容そのものが公務員の信用を失墜するような内容である場合は、許可はできない。また、病気休暇中及び休職期間中は、療養に専念することを目的としているため、新たな事業を行うことは、病気休暇及び休職の趣旨を逸脱しており、営利企業従事許可は認められないと考えるが、病気休暇前から事業を継続している場合は、状況により判断することとなる。
仮に病気休暇中や休職期間中に不動産を得る等の副業をした場合は、悪質性はあるが、そのことをもって懲戒免職とはならない。ただし、懲戒処分指針による懲戒処分の標準例では、減給又は戒告とあるので、加重要素(減給期間が1か月から6か月)の検討対象になる。
なお、本件元教員の服務に関する監督権は市教委であるから、許可の決定権は市教委である。
ウ 本件元教員の営利企業従事許可申請(以下「本件許可申請」という。)の有無及び県教委への報告について
服務を監督する管轄市教委から、本件許可申請書は提出されていないと聞いている。また、本件許可申請の有無は県教委には報告されていない。
エ 本件元教員の在職期間中における本件副業の把握について
本件元教員の在職期間中の本件副業については分からなかった。本件許可申請は自己申告なので、県教
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委としては本件副業の有無を把握するのは難しい。
(4) 本件元教員に対する退職手当の支払について
本件元教員に対し、公立学校職員退職手当支給条例(昭和29年群馬県条例第40号。以下「条例」という。)第4条の規定を適用し、退職手当を支払った。また、条例第12条第1項の規定による懲戒免職等処分を受けた場合等の退職手当の支給制限の適用はなかった。
条例第13条に規定する「職員が刑事事件に関し起訴されたとき」、「懲戒免職等処分を受けるべき行為(在職期間中の職員の非違に当たる行為であって、その非違の内容及び程度に照らして、懲戒免職等処分に値することが明らかなものをいう)をしたことが疑われるとき」などに該当する場合は、退職手当の支払を差し止める処分を行うことができるが、本件元教員については、上記事実が確認されなかった。
なお、懲戒免職等処分とは、条例第11条第1号により、地公法第29条の規定による懲戒免職の処分その他の職員としての身分を当該職員の非違を理由として失わせる処分とされている。
また、条例第2条の3第2項の規定により、当該退職手当は、退職した日(平成29年3月31日退職)から1月以内に支払わなければならないことから、同年4月21日に支払った。支給額は条例第2条の4の規定により、計算している。
(5) 本件元教員に対する退職手当の返納について
退職後の退職手当については、条例第15条第1項の規定により、退職をした者が基礎在職期間中の行為に係る刑事事件に関し禁錮以上の刑に処せられたときや、退職をした者について、一般の退職手当等の額の算定の基礎となる職員としての引き続いた基礎在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたと認められるときに返納を命ずる処分を行うことができる。
本件元教員の退職手当は既に支払っているので、現時点では、在職期間中の行為に係る刑事事件に関し禁錮以上の刑に処せられてもいないし、在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたと認めていないことから、退職手当の返納を命ずる処分を行うことができる事由に当たらない。
また、本件許可申請の場合は、管轄市教委が判断することになるが、県教委としては、本件許可申請をすれば許可になる可能性が高い。
さらに、本件について調査を行ったところ、不動産収入があった事実は確認できたが、それが請求人が主張している本件元教員の本件副業による収入であったとしても、本件許可申請のけ怠にすぎず、それは在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為に当たらないと考える。
(6) 請求人の主張に対する見解について
ア 本件元教員が、本件許可申請をしないまま、このような悪質な内容の副業にいそしんでいたにもかかわらず、本件元教員に退職手当を支払ったことは違法・不当であるとする主張について
本件許可申請を怠り、懲戒処分指針により減給又は戒告処分を受けたとしても、条例等に基づき、退職手当は支払われるため、違法・不当には当たらないと考える。
イ 平成28年には不動産業等を目的に株式会社を設立し、取締役に就任していたにもかかわらず、この期間内にしかるべき副業ないし兼業許可申請やそれに対する所轄庁の長等の承認を得た形跡が見当たらないとする主張について
本件措置請求の事実証明書2において、株式会社の登記がされているが、本件元教員が取締役に就任したのは、退職後であるため、請求人の主張と事実証明書2が相違しているのではないかと考える。
ウ 本件副業にいそしんでいることにより、本業に支障が生じ、職務専念義務に違反しているのではないかとする主張について
管轄市教委に調査したところ、業務に対して熱心に取り組んでおり、職務に専念していない様子は見ら
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れなかったとのことだった。
また、本件元教員は、しっかりとした勤務実績がある人が推薦される総合教育センターの研修に選ばれていた。
エ その他
仮に在職期間中に本件元教員の行為が明らかとなり、懲戒処分を行ったとしても、懲戒免職には該当する事案ではないため、退職手当の不支給とはならない。
また、現時点では、当該退職手当の返納を命ずる処分を行うことができる事由に当たらないため、返納させる意向はない。
2 事実関係の確認
(1) 本件許可申請について
本件許可申請はされていなかった。
(2) 懲戒処分について
本件元教員に対して、在職期間中に懲戒処分はなかった。
(3) 退職手当の支払について
退職手当の支給制限はなく、条例及び関係規則に基づき、平成29年4月21日に支払われていた。
(4) 退職手当の返納を命ずる処分について
本件元教員に対して、条例第15条第1項に基づく、退職手当の返納を命ずる処分を行っていなかった。
第9 監査委員の判断
1 住民監査請求の請求期間について
まず、地自法第242条第2項により、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは、これをすることができないとあり、ただし、正当な理由があるときは、この限りではないとされている。
本件措置請求における退職手当の支払日は平成29年4月21日であり、1年を経過しているため、請求期間経過の正当な理由を判断することとする。
この正当な理由を判断するに当たり、最高裁は、「地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には、地自法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は、住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて前記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最一小判平成14・9・12民集56巻7号1481頁)」と判示している。
上記判例の趣旨を踏まえ、県教委に対して監査したところ、財務会計行為(本件措置請求においては、退職手当の支払)の原因となる本件元教員の行為については、「令和2年6月3日に収受した文書により知った」、「兼業・兼職の申請は、自己申告によるもののため、この事実を知り得ることは難しい」との回答があった。任命権者である県教委が把握していないことを、請求人が相当の注意力をもって調査をしても客観的にみて当該行為の存在及び内容を知ることは困難である。
本件措置請求において、請求人は、令和2年5月20日に県民から情報提供が寄せられ、同月29日付けで公文書開示請求を提出し、同年6月12日に公文書部分開示決定がされた通知書を同月16日(同日は、請求人の主張による。)に見て、本件元教員に対する退職手当の支払の事実を確認し、同年8月7日に本件措置請求書が提出されたものであり、当該行為の存在及び内容を知ることができたときから相当な期間内に本件措置請求をしており、退職手当の支払日から1年を経過している正当な理由があるものと判断した。
2 判断
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本件措置請求において、請求人は、本件元教員が在職期間中に本件副業を営み、株式会社を設立し、取締役に就任していたにもかかわらず、本件許可申請の承認を得ていないことは、地公法第38条に抵触し、内容的にも、人事院規則14-8に列挙されている項目をはるかに凌駕し、悪質なものであるので、平成29年3月末までに本件元教員に退職手当を支払ったことは違法・不当であるから、監査委員は、群馬県知事及び県教委に対し、本件元教員に支払った退職手当及び年5分相当の遅延損害金を回収するため必要な措置をとるよ う求めていると解される。
そして、本件措置請求において、退職手当等を回収するためには、請求人の主張する本件元教員の行為について、懲戒免職等処分に該当する又はこれを疑うに足りる相当な理由があり、条例1第2 条第1項の規定による当該退職手当の支給制限又は条例第13条の規定による支払の差止めに該当するにもかかわらず、当該退職手当を支払ったことが違法・不当であると認められる場合か、あるいは、条例第15条第1項第3号の規定に該当し、退職手当の返納を命ずる処分に該当すると認められる場合でなければならない。
これらについて、監査委員は次のとおり判断した。
ア 本件元教員に退職手当を支払ったことが違法又は不当に該当するか
本件元教員が退職した時点では、懲戒処分を受けておらず、条例第12条第1項の規定による退職手当の支給制限の適用はない。また、懲戒免職等処分に該当する又はこれを疑うに足りる相当な理由は確認されておらず、条例第13条の規定による当該退職手当の支払の差止め事由の適用もない。
よって、当該退職手当の支出は、違法又は不当な公金の支出であるとは認められない。
イ 請求人の主張する本件元教員の行為が条例第15条第1項第3号に該当し、退職手当の返納を命ずる処分をする場合に該当するか
はじめに、本件措置請求における監査対象事項は、本件元教員の在職期間中にした行為が対象であり、退職後の行為については、条例第15条第1項第3号の規定に該当しないため、監査対象外とした。
まず、請求人が主張する退職手当等を回収するためには、在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為があったと判断されることが前提となる。
そして、県教委は、その責任と権限によって、在職期間中の懲戒処分に係る判断や、退職した者に対し、在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為があったとの判断を行うのであり、この判断については、懲戒権を有している県教委の裁量である。
なお、公務員関係における懲戒処分の違法性について、最高裁は、「懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する懲戒処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであったかどうかまたはいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と右処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである(最三小判昭和52・12・20民集31巻7号1101頁)」と判示している。
これを本件についてみるに、懲戒処分指針により、「営利企業の役員等の職を兼ね、若しくは自ら営利企業を営むことの承認を得る手続又は報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員等を兼ね、その他事業若しくは事務に従事することの許可を得る手続を怠り、これらの兼業を行った教職員は、減給又は戒告とする」とされている。
そして、県教委は、請求人が主張する本件元教員の行為は、本件副業による収入があったとしても、本件許可申請のけ怠が問題であり、また、仮に病気休暇中や休職期間中に新たな副業をした場合は、懲戒処分指針による懲戒処分の標準例の加重要素の検討対象になるが、そのことをもって懲戒免職とはならず、当該行為を在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為と認定することはないとしている。
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懲戒処分指針によれば、本件許可申請のけ怠について、懲戒処分の標準的な処分の種類は、減給又は戒告であり、退職手当が賃金後払い等の性格を有すること、本件元教員が県費負担教職員として勤務している間、懲戒処分を受けたことはないこと、業務に対して熱心に取り組んでおり、本件副業により現実に職務を怠ったとする事実は確認されていないことなどの諸事情を考慮すると、職員としての身分を失わせるという懲戒処分のなかでも最も重い処分である懲戒免職等処分を受けるべき行為があったと認めていない県教委の判断は、社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものであるとは認められない。
したがって、県教委が条例第15条第1項の規定による退職手当の返納を命ずる処分を行っていないことは、違法又は不当であるとは認められない。
3 結論
以上のとおりであるから、請求人の主張は理由がなく、これを棄却する。
以上
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■安部前政権が遺したいくつかのスローガンのうち「一億総活躍社会の実現」というのがあり、「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」の「新・三本の矢」の実現に向けて、政府を挙げて取り組む、としていました。そして、この実現のため「働き方改革」という言葉が好んで使われました。この働き方改革で、「公務員の副業が解禁」という報道を聞いたことがある方も多いかと思います。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/pdf/gaiyou_h290328.pdf
ところが、我が群馬県は逸早く公務員の副業を10年以上前から解禁していました。なんと10年間で1億9千万円もの副業収入を不動産賃貸業やFIT制度活用の太陽光発電の売電で得ていた敏腕の中学校の先生に、群馬県は退職手当として1200万円(推定)を支払い、それは、彼の副業が本業に移行するにあたっての餞別代わりとなりました。実際に、2017年3月末に退職後、1年足らずで彼の資産は自称5億円に達しました。
■コロナ禍でも収入源のリスクが全くない恵まれた群馬県職員の皆さんですが、今回、「働き方改革」の観点からも、福利厚生をさらに充実させる画期的な判断を監査委員が下したことで、“役人天国”群馬県の「官高民低」促進に拍車がかかることでしょう。
このため、これを黙認すべきか、それとも歯止めをかけるべきか、30日以内の11月12日(月)までに対応を決める所存です。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
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