噛みつき評論 ブログ版

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魂を売り渡したAERA

2011-04-11 10:18:40 | マスメディア
3月28日号のアエラが一部で評判になっています。3月28日の読売新聞電子版は「アエラ表紙に抗議、野田秀樹氏が連載降板」という記事を載せています。

『福島第一原子力発電所の事故を扱った朝日新聞出版発行の週刊誌「アエラ」3月28日号が、風評被害を広げると批判された問題で、同誌に随筆を連載してきた劇作家・演出家の野田秀樹さん(55)は、28日発売の4月4日号で連載を自ら降りることを明らかにした。
 野田さんは、「ひつまぶし」と題した随筆の中で、「アエラ」28日号が表紙に「放射能がくる」と見出しを付けたことなどを疑問視し、「刺激的なコピーを表紙に使い人々を煽(あお)る雑誌だったとは気がつかないでいた」、「このアエラの[現実]に対する姿勢への不安が消えません」などと降板の背景を説明している』

 野田秀樹氏の行動がアエラの体質を世に知らせることにもなりました。アエラには多くの苦情が寄せられ、編集部はネット上の小さい字で謝罪しました。野田氏に敬意を表したいと思います。しかしこのアエラの営業戦略は成功し、すぐに売り切れたようで、私は入手できませんでしたが、かなりマトモと思われる森田満樹氏の論評が参考になりました。

 他方、週刊朝日とBS朝日は広瀬隆氏を登場させ不安を煽っています。BS朝日で放映された福島原発事故 メディア報道のあり方 広瀬隆では「福島第一の4基とも危機にあり、1基でも逝くと近づけなくなるので6基とも次々と逝ってしまう。そうなる可能性は非常に高い。そして2日ほどで日本中が放射能の雲で覆われる」という意味の発言をしています(「逝く」と言う言葉は爆発などで大量の放射性物質が飛散するという意味だと思われます)。

 反原発で知られる広瀬隆氏は高い煽動能力をお持ちだと認めますが、決して冷静な解説者ではないと思われます。激しい誇張といい加減な話が多く、トンデモ系の怪しい人物とも見られているようで、少なくとも一流メディアが取り上げるような人物ではありません。彼を起用しなかった朝日新聞本体とテレ朝はよくわかっているのでしょう。

 朝日信者でなくとも、素直な人がアエラやBS朝日を見るとすぐに逃げなければ、という気持ちになります。少なからぬ人々が関西や国外へと避難していますが、これらの報道がそれを促したことは否定できません。また風評被害の大きい要因にもなるでしょう。不合理な風評を取り除くことはマトモなメディアの仕事だとおもいますが、これでは逆さまです。

 多くの週刊誌が原発の恐怖を書きたてる中、3月19日発行の「週刊ポスト4月1日号」は異色です。新聞広告を見ただけですが、「日本を信じよう」という特集を組み、恐怖を煽るような記事は見当たりません。恐怖を煽るという販促法に比べ地味ですが、社会に好ましい影響を与える編集方針は評価できます。

 新聞や出版社は売れなければ潰れるという宿命を負っているわけで、ある程度のセンセーショナリズムは仕方がないでしょう。でもアエラやBS朝日は大きく逸脱しており、その弊害は看過できない大きさです。利益を追求する精神がメディアとしての良心を凌駕したように見えます。朝日の給与水準は業界でトップクラスですが、それはこのような精神の賜物(たまもの)なのでしょう。朝日は戦後、一転して左派色を強めたわけですが、内実は資本主義体制の優等生であったという皮肉な話です(新聞・放送業界の給与水準についての参考記事)。

 戦前、朝日新聞は「社員を路頭に迷わすわけにはいかない」と言って、軍部にジャーナリズムの魂を売りました。今は「社員に貧しい暮らしをさせるわけにはいかない」と言って、魂を売り渡すことにしたのでしょうか。