福島第一原発の半径20キロ・メートル圏内が、22日から「警戒区域」になり、違反者は罰則を適用されることになりました。圏内への出入りは本人が決める問題であり、政府は本人が判断するのに十分な情報を与えればよく、一律の強制退去は余計なお節介だと思います。これは「民は之に由らしむべし、之を知らしむべからず」という強権的な手法とも受け取れます。
一方、合理的な根拠もなく、居住移転の自由という憲法上の基本的人権を直接に制約する措置は憲法違反の疑いがあるという意見もあります。朝日、読売、日経は社説でこの問題を取り上げていますが、部分的な批判にとどまっています。
朝日は「放射能と避難―住民の納得が大切だ」というタイトルで住民の納得を強調しています。「100ミリシーベルト超になるおそれがある地点が1割ある一方、約半数の地点は現在の避難を求める基準の20ミリシーベルト未満など、場所により汚染の程度に大きな差があるが、低汚染の地域でもなぜ帰宅が制限されるのかを丁寧に説明すべきだ」としています。果たして住民が納得するような説明が存在するのか、たいへん疑問です。
また「国際放射線防護委員会が定めた事故後の緊急時の目安は20~100ミリシーベルトと幅がある。なぜ最も厳しい20ミリシーベルトを基準にして避難する必要があるのか、住民が納得できる説明がいる」と述べていますが、これはその通りでしょう。
しかし朝日自体が政府の説明を理解・納得しているとは思えず、住民に対して丁寧に説明すればよい、という主張には納得できません。まず政府に詳細な説明を求めるのが筋というもので、自分が理解もしないまま、住民に対して丁寧に説明すればよい、とするのは無責任な態度です。
読売は「『警戒区域』設定 住民に説明と代償措置が要る」という題で、警戒区域の設定は止むを得ないとした上で、一時帰宅時間の延長を求め、また朝日と同様、説明が必要と述べています。
日経のタイトルは「警戒区域の避難者に丁寧な説明尽くせ」』で、もっとも批判的な内容です。「漏れている放射性物質は発生直後よりかなり減ったとみられ、周辺の放射線量も減少傾向にあるのに、なぜ今になって実施するのか理解に苦しむ」と述べています。また「空き巣の被害も出ているが、それを防ぐためなら、もっと早く手を打てたはずだ」としています。
社説ではないのですが、毎日は「記者の目」では新たな計画的避難区域について、
「福島県飯舘(いいたて)村が、大気中の放射線量が高いなどの理由で国から『計画的避難区域』に指定され、全住民の避難を求められる見込みになった。これに対して村は、放射線量が低い地区を除外することや、役場機能を残すことを認めるよう訴えている。放射線のリスク以上に高齢者ら弱者の心身に負担がかかり、主要産業の畜産が途絶するダメージも大きいからだ」とし、国の一律のやり方を批判しています。
20km圏内は警戒区域というのはわかりやすいですが、まことに丁寧さを欠いた決め方です。放射線レベルに応じて細かく決めるのは「めんどくせー」ということなのでしょうか。計画的避難区域における村単位の指定も同様です。
機械的な線引きのため、わしのところは強制退去させられるがお隣は自由だ、といったことが起こります。20ミリシーベルト未満の地域でも家畜の給餌のために帰宅することが許されなくなり、家畜は餓死することになるでしょう。高齢者の場合は放射線より不自由な避難生活の方が深刻です。
この問題に政府が強制力を行使することは妥当でしょうか。20km圏内に入ったところで他人に迷惑をかけるわけではなく、本人が健康上のリスクを負うだけであり、本人が決めるべき問題です。圏内に入るのを地元民に限定し、十分な情報提供と線量計の携行など、本人がリスクをよく理解・管理できるようにすればよいことです。
多くの人が合理的な理由もなく住居を追われるようなお節介は人権にかかわる重大な問題です。法による規制は大雑把な網をかけることであり、不合理な部分が生じることは避けられません。強制力をもって人権を侵害することは慎重であるべきです。まして20km圏内といった荒っぽい手法は理解できません。
各紙とも警戒区域や計画的避難区域の設定自体に正面から反対する主張は見あたらないことが残念です。不二家事件など、僅かな健康リスクを振りかざして激しいバッシングを繰り返してきたメディアは微小な健康リスクに関して現実的な態度をとれば自家撞着に陥るのかもしれません。そんなくだらないことより、不合理なことで自由を奪うことの方が私には大切に思えます。この強権的なやり方が民主党政権の隠れた体質なのかどうかは知りませんが、強制による健康上の効果と不自由を強いる副作用のバランスについて十分吟味されたのか、たいへん疑問です。
国立がんセンターによると100~200ミリシーベルトの被曝による発ガンリスクは1.08倍です。これは肥満による発ガンリスクの1.22倍、男性の喫煙や毎日3合以上の飲酒の1.6倍よりかなり小さい値です。この1.6倍は2000ミリシーベルト以上の被曝とほぼ同じだそうです。強制退去を正当化するためには、まずタバコや多量の飲酒、肥満を即刻禁止する必要があります。
(参考)国立がん研究センターの記者会見、4月25日付日経記事
一方、合理的な根拠もなく、居住移転の自由という憲法上の基本的人権を直接に制約する措置は憲法違反の疑いがあるという意見もあります。朝日、読売、日経は社説でこの問題を取り上げていますが、部分的な批判にとどまっています。
朝日は「放射能と避難―住民の納得が大切だ」というタイトルで住民の納得を強調しています。「100ミリシーベルト超になるおそれがある地点が1割ある一方、約半数の地点は現在の避難を求める基準の20ミリシーベルト未満など、場所により汚染の程度に大きな差があるが、低汚染の地域でもなぜ帰宅が制限されるのかを丁寧に説明すべきだ」としています。果たして住民が納得するような説明が存在するのか、たいへん疑問です。
また「国際放射線防護委員会が定めた事故後の緊急時の目安は20~100ミリシーベルトと幅がある。なぜ最も厳しい20ミリシーベルトを基準にして避難する必要があるのか、住民が納得できる説明がいる」と述べていますが、これはその通りでしょう。
しかし朝日自体が政府の説明を理解・納得しているとは思えず、住民に対して丁寧に説明すればよい、という主張には納得できません。まず政府に詳細な説明を求めるのが筋というもので、自分が理解もしないまま、住民に対して丁寧に説明すればよい、とするのは無責任な態度です。
読売は「『警戒区域』設定 住民に説明と代償措置が要る」という題で、警戒区域の設定は止むを得ないとした上で、一時帰宅時間の延長を求め、また朝日と同様、説明が必要と述べています。
日経のタイトルは「警戒区域の避難者に丁寧な説明尽くせ」』で、もっとも批判的な内容です。「漏れている放射性物質は発生直後よりかなり減ったとみられ、周辺の放射線量も減少傾向にあるのに、なぜ今になって実施するのか理解に苦しむ」と述べています。また「空き巣の被害も出ているが、それを防ぐためなら、もっと早く手を打てたはずだ」としています。
社説ではないのですが、毎日は「記者の目」では新たな計画的避難区域について、
「福島県飯舘(いいたて)村が、大気中の放射線量が高いなどの理由で国から『計画的避難区域』に指定され、全住民の避難を求められる見込みになった。これに対して村は、放射線量が低い地区を除外することや、役場機能を残すことを認めるよう訴えている。放射線のリスク以上に高齢者ら弱者の心身に負担がかかり、主要産業の畜産が途絶するダメージも大きいからだ」とし、国の一律のやり方を批判しています。
20km圏内は警戒区域というのはわかりやすいですが、まことに丁寧さを欠いた決め方です。放射線レベルに応じて細かく決めるのは「めんどくせー」ということなのでしょうか。計画的避難区域における村単位の指定も同様です。
機械的な線引きのため、わしのところは強制退去させられるがお隣は自由だ、といったことが起こります。20ミリシーベルト未満の地域でも家畜の給餌のために帰宅することが許されなくなり、家畜は餓死することになるでしょう。高齢者の場合は放射線より不自由な避難生活の方が深刻です。
この問題に政府が強制力を行使することは妥当でしょうか。20km圏内に入ったところで他人に迷惑をかけるわけではなく、本人が健康上のリスクを負うだけであり、本人が決めるべき問題です。圏内に入るのを地元民に限定し、十分な情報提供と線量計の携行など、本人がリスクをよく理解・管理できるようにすればよいことです。
多くの人が合理的な理由もなく住居を追われるようなお節介は人権にかかわる重大な問題です。法による規制は大雑把な網をかけることであり、不合理な部分が生じることは避けられません。強制力をもって人権を侵害することは慎重であるべきです。まして20km圏内といった荒っぽい手法は理解できません。
各紙とも警戒区域や計画的避難区域の設定自体に正面から反対する主張は見あたらないことが残念です。不二家事件など、僅かな健康リスクを振りかざして激しいバッシングを繰り返してきたメディアは微小な健康リスクに関して現実的な態度をとれば自家撞着に陥るのかもしれません。そんなくだらないことより、不合理なことで自由を奪うことの方が私には大切に思えます。この強権的なやり方が民主党政権の隠れた体質なのかどうかは知りませんが、強制による健康上の効果と不自由を強いる副作用のバランスについて十分吟味されたのか、たいへん疑問です。
国立がんセンターによると100~200ミリシーベルトの被曝による発ガンリスクは1.08倍です。これは肥満による発ガンリスクの1.22倍、男性の喫煙や毎日3合以上の飲酒の1.6倍よりかなり小さい値です。この1.6倍は2000ミリシーベルト以上の被曝とほぼ同じだそうです。強制退去を正当化するためには、まずタバコや多量の飲酒、肥満を即刻禁止する必要があります。
(参考)国立がん研究センターの記者会見、4月25日付日経記事