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習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『サクラサク』

2014-04-11 19:37:11 | 映画
認知症の老人を描く映画が最近多い。この映画はそんなひとつなのだが、これはかなりきつい。あのかっこいい藤竜也が、ここまで惨めな老人を演じる。彼がボケて、紙おむつをして、お漏らしして、うんこをぶちまけて、そんな男をそのまま演じている。だが、それなのに、実は惨めではない。藤竜也が演じるとそれでもかっこいいのか。もちろん、そうなのだが、それって何なのか。

 年をとるのは必然だ。それによって、今まで出来ていたことが不可能になる。歯痒いのは、当然だ。自分が嫌になる。でも、現実を受け止めなくてはならない。だんだん、物忘れが激しくなり、不安でならない。だが、それを人には知られたくない。自分の力で何とかしようと努力する。だが、症状はどんどん進行する。今まで自分に対して自信を持って生きてきた。だが、そんな自信が揺らいでくる。

 少し残念なのは、映画が彼の視点からではなく、息子である緒方直人の目から描かれていくことだ。彼は仕事人間で家を顧みないでこれまでやってきた。会社では部下からも上司からも絶大な信頼を得ている。次の役員会では取締役に就任する予定だ。だが、家庭は崩壊している。二人の子供たちは彼を信頼していない。妻とは家庭内別居の状態だ。そこに、父親の認知症、である。

映画は視点が彼の側から描かれるし、会社の描写が少し嘘くさいから、前半は見ていて、なかなか映画に乗れない。だが、藤竜也の自然体の演技に支えられて、なんとか、持ちこたえる。症状が進行し、でもそれを真摯に受け止める。やがて、息子である緒方直人が、父親や息子の本当のことを知った時、お話は一気に新しい局面を迎えることになる。この映画はなんとロードムービーだったのだ。

そこからは失われていく記憶の根源をたどる旅が描かれていく。そのことを通して、家族が再生していくことになる。だが、それは、ただの甘いだけのメルヘンではない。傷つきながら、でも、自分たちのすべきことをみんながそれぞれ見つけていくことで、再び桜は咲く。いささか、ご都合主義の展開もあるけど、ギリギリで信じられる映画になった。


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