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映画・演劇のレビュー

椰月美智子『その青の、その先の、』

2014-04-11 19:34:01 | その他
4人の女の子たちの17歳を、高校2年の1年間を、描く。1年前から、1年後も視野に入れた大きな意味での高校時代の3年間を描くのだ。先に見た映画『大人ドロップ』が高校3年の夏というピンポイントだったのと同じようにこれも1年というスパンで「あの頃」、人生で一番輝く時代、に迫る小説だ。今、この時期こういうタイプの映画や、小説を読むことで、これから始まる3年間への心の準備をするのは、とてもいい。今年は1年生の担任だから、まず、そういう気持ちの準備が何より必要になる。今週から、新学期がスタートした。40人は、みんなそれぞれの想いを抱いて教室にいる。彼らとこれから、一緒に何ができるのか、とても楽しみだ。

この小説は高校時代って何なのかを改めて教えてくれる。子供でもないし、大人でもない。だから、かけがえのない時間。不安定で、いつも心が揺れている。ちょっとしたことに傷つき、苦しむ。デリケートでナーバス。大切にしなくてはすぐに消えてしまう輝き。一瞬の人生に夏。

「その青の、その先の、」ものをつかむために、精一杯生きている子供たちの姿が愛おしい。自分がまだ、何者でもないから、何者にでもなれる。いくら失敗しても構わない。また、再び立ち上がれる。デリケートなのに、とても鈍感で、どんくさい。でも、それでいいのだ。

小説は終盤で惨いことになる。交通事故で片足切断という状況になった恋人をちゃんと支えようと覚悟する少女。そんな彼女を見て、仲間である3人の少女たちもまた、自分の生き方を本気で考えざる得なくなる。このままではダメだ。ぬるま湯の高校生活に安住するのではなく、本当の自分の生き方を模索して覚悟する。事故を通して、今ある毎日は保障されているわけではないことを知る。頭ではそんなこと、みんな分かっていても、事実として突き付けられるとうろたえるしかない。だが、そこで負けるのではない。ちゃんと、その現実と向き合うのだ。

最初はもう立ち直れないと、思う。しかし、負けない。まだ、終わったわけではない。その先に行ける。彼女たちの(周辺の男子たちも含めて)1年間を通して、僕たちの毎日って何なのかを教えられる。短い描写で、(数ページでワンエピソードが終わる)その積み重ねで、淡々としたタッチで、(ドラマチックにはしない)見せてくれるのは、『しずかな日々』を読んだときから絶大な信用を寄せている椰月美智子だから、当然の話だ。彼女が高校時代を真正面から描いてくれたこの宝物のような小説をバイブルにして、これからの3年間をスタートさせたい。落ち着いたトーン(タイトルにある「青」だ)で、4人の少女たちを追い、彼女たちが今たどり着いた場所を提示してくれる。大切なことは、その先、である。3年生になって、新しい1年が始まったところで、小説としてはひとまず幕を閉じるのも、心地よい。お話はここからだ。


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