11話からなる短編連作。東京の小さな商店街。そこで暮す人々のそれぞれの物語。この町の数十年のささやかな歴史のなかで、埋もれていく人々の営み。その長い時間の中にあるいくつかの出来事を描いていく。
魚屋の2人の男の話がすばらしい。死んでしまった妻の愛人だった男と2人で暮す。この奇妙な関係がいい。最初に彼らの話がある。ここで一気に引き込まれる。そして、独立した話が続く。だが、どれもがほんの少し続いている。それらはいずれもこの町のささやかな風景である。ここで生きる人たちが描かれていく。それぞれの家族のいろんな関係性はどこにでもあるものかもしれないが、どこにもないくらいに特別だ。
この忘れられたような町で暮す人たちのあやういような幸福を川上さんは静かに切り取って見せてくれる。微妙なドラマが、切ないくらいにやるせなく、どうしようもないものとして描かれる。絶妙である。ただのスケッチなのに、だからこそ愛しい。詮ないなぁ、と思う。描かれるドラマはいつものようにあっさりしている。淡い。
お話は、最後にもう一度魚屋(魚春、という)に戻ってくる。死んでしまった奥さんの話になる。彼女と2人の男たちの物語だ。なんだか寂しくて、でも生きているって、こんなふうな寂しさを引き受けていくことだと思う。ここに出てくるひとりひとりの姿が愛しい。子どもの頃に思ったこと、それが今にどう影響してくるか、とか、そんなエピソードもある。11編には、それぞれの事情が綴られる。噛み締めるようにそれを味わう。心に沁みいる秀作だ。
魚屋の2人の男の話がすばらしい。死んでしまった妻の愛人だった男と2人で暮す。この奇妙な関係がいい。最初に彼らの話がある。ここで一気に引き込まれる。そして、独立した話が続く。だが、どれもがほんの少し続いている。それらはいずれもこの町のささやかな風景である。ここで生きる人たちが描かれていく。それぞれの家族のいろんな関係性はどこにでもあるものかもしれないが、どこにもないくらいに特別だ。
この忘れられたような町で暮す人たちのあやういような幸福を川上さんは静かに切り取って見せてくれる。微妙なドラマが、切ないくらいにやるせなく、どうしようもないものとして描かれる。絶妙である。ただのスケッチなのに、だからこそ愛しい。詮ないなぁ、と思う。描かれるドラマはいつものようにあっさりしている。淡い。
お話は、最後にもう一度魚屋(魚春、という)に戻ってくる。死んでしまった奥さんの話になる。彼女と2人の男たちの物語だ。なんだか寂しくて、でも生きているって、こんなふうな寂しさを引き受けていくことだと思う。ここに出てくるひとりひとりの姿が愛しい。子どもの頃に思ったこと、それが今にどう影響してくるか、とか、そんなエピソードもある。11編には、それぞれの事情が綴られる。噛み締めるようにそれを味わう。心に沁みいる秀作だ。