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映画・演劇のレビュー

『柳川』

2023-01-08 12:53:13 | 映画

これもまた(『ノベンバー』に続けて見た)なんだか不思議な映画だ。中国のチャン・リュル監督が久々で中国映画を撮った。韓国映画ではなく中国映画なのだが、『福岡』に続いて今回もまた日本が舞台で、幻想的な風景が描かれていく。もちろん不思議なのはそれが理由ではない。シュールなタッチなのか、描き方が中途半端なのか、よくわからないくらいの微妙な匙加減なのだ。しかも、それはなんとなくこの作品自体のテイストで、魅力でもある。

ふたりの中国人が日本の柳川に旅してくる。中年男ふたり。兄と弟。弟は末期がんで、そのことを兄には話していない。彼にとっては人生最後の旅だ。なぜ、旅先が柳川なのか、というとふたりが好きだった女性の名前が柳川だったから。(柳川は北京語で「リウ・チュアン」と読む)そして、その彼女は今、柳川で暮らしているから。そんな偶然が、ではなく、彼女は自分の名前と同じ名前の町だから、という理由でここにやってきた。兄弟と彼女の3人は幼なじみ。昔兄と彼女が付き合っていたが、兄は彼女を振った。弟もまた彼女が好きだったけど、彼は自分の気持ちを彼女には伝えられない。そしてあれから20年たった今でも彼女が好きだ。そう、この3人は20年振りで会う(再会した)のだ。この柳川で。

彼女がこの町に来た理由はロンドンで知り合った日本人男性からこの町のことを教えられたから。その男性と一緒にこの町に来た。ここは彼の故郷だ。彼はここで民泊をしている。兄弟はそこに泊まりに来る。偶然ではなく、意図的にここに来たのか。彼女がここにいると知ったのは偶然なのか。主人公4人があまりにうまく遭遇する。そして、お話はこの4人(と彼らの行きつけの小料理屋の女将さんの5人だけど。この女将を中野良子が演じる)だけ。町はゴーストタウンのようで誰もいない。ここは日本のベニスだけど、観光客はいない、とかいうけど、いくらなんでも現実の柳川はここまで寂れてはいないだろう。これは彼らだけの世界の話だ。実際はほかにも人はいるけど、彼らには自分たちしか見えないのかもしれない。

3人の男たちと、彼らが好きになる彼女。この4人の会話劇。中国から来た兄弟は何もないこの町で何日も何もせずに過ごす。彼女はずっと彼らと付き合う。日本人の男(池松壮亮)の民泊施設は2組しか泊まれないから、この兄弟と彼女だけが宿泊客。ここでは川下りの時間のようにただゆっくりと流れていくだけ。特別なことは何もない。時間はまるで止まったままのようだ。そしてそこで、彼らは微睡む。でも、兄の妻からケータイに連絡が入る。「いつになったら帰ってくるのよ!」と。現実に引き戻される。夢の時間はいきなり醒める。

1年後を描く(弟が死んだ後の)シーンもあっけない。ラストでは弟の部屋のベッドに倒れこむ彼女の姿を描く。最後まで不思議な映画だ。これはやはりすべてが夢の中の時間だったのだろう。


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