とてもシンプルなお話だ。今暮らす場所で住めなくなった人たちを移住させるための通報員ととどまり続ける人たちとのやりとりが描かれる。ただ、移住というのが、地球から他の星へということで、お話はちょっとSFなんですが、テンションは低め。前半は息子の帰りを待つ年老いた母親の話。後半は人のいなくなった街で窃盗を繰り返す小劇場の劇団員。彼らはここで公演を打つ予定で準備している。そんなふたつのお話に出口弥生演じる「種を持つ少女」(と、チラシにはある)が象徴的に介入する。
橋本浩明演じる主人公(通報員)は彼らに対して穏やかに接するから彼らはなかなか輸送船に乗りそうにない。地球に居続けることがかなわないという現状のなかで、それでもとどまり続けたい人々の気持ちが静かなやりとりの中から伝わってくる。でもそれは強い意志ではなく、仕方なくここにいるみたいな感じで、そんな微妙な空気は、通報員の優しさと相俟って作品全体を貫く。『君ヲ泣ク』のピリピリした空気とは対照的で、こちらはとても穏やかで、でも、それはあきらめにも見えて、なんだかとても寂しい。