セドリック・クラピッシュ監督の新作。久々の新作で、実は日本では2018年の12月にひっそりと公開されていたようだが、まるでノーチェックだった。たまたま先日TSUTAYAで見つけて借りてきた。
いつも通りとても気持ちのいい映画だった。『猫が行方不明』で出会い、以降すべての公開作品を見てきている(はず)のだけど、最近日本での劇場公開がなく、本作がたぶん10年ぶりくらいではないか。彼の名前をしばらく忘れていたくらいだ。映画はとても優しく暖かい映画で見てよかった。三兄弟の再会を通して彼らの今後の人生への展望を描く。
10年ぶりに故郷のブルゴーニュに戻ってきた主人公(たまたまだけど、クラピッシュもこの映画で10数年ぶりに日本に戻ってきている!)が、父親のいなくなったブドウ畑とワイン工場を引き継ぐことになる妹を助けて、しばらくここに滞在する。彼自身は世界を放浪していた後、オーストラリアで同じようにブドウ農場を経営している。むこうには妻と子どもがいるのだけど、上手くいってないようだ。こんなところは嫌だ、と逃げ出したはずなのに、父親と同じように田舎の農園でワインを作っている。久々に帰ってきたら父親は入院していて、やがて死ぬ。母親は数年前に他界している、その時は、自分のことで忙しくて帰れなかった。なんだか、とても自分勝手な男なのだ。だから、妹もその下の弟も素直に彼の帰郷を喜べない。
お話自体はたわいもない。どこにでもあるようなお話だ。それを特段変わった展開もなく描くので、別にどうってことのない映画のように見える。だけど、このなんでもないところが、クラピッシュの手にかかると、とても面白いものとなる。どうでもいいようなことを丁寧に描くことで、それがなんだかとても大切なものになる。
とある家族、日常のスケッチ、それが大切なことを伝えることとなる。ここまで生きてきた。そしてこの先も生きていく。当たり前の話だ。人生のある瞬間をちゃんと切り取り、輝かせてくれる。農園で、ぶどうを刈り取り、ワインを作る。それが彼らの人生だ。ここに描かれるある瞬間は実は特別なものではない。兄の帰郷という事件はあるけど、それだってたまたまそういうことがあっただけ。これは彼らの生活のどこを切りとっても成り立つ映画なのだ。そんな気分にさせてくれるところが、クラピッシュの上手さで、久しぶりなのに、見慣れた映画をまた見ることができたな、という安心感とそれくらいのさりげなさ。でもそれが心に沁みる。おかえり、セドリック・クラピッシュ。