高橋恵さんの最高傑作。ここ数本ますますレベルを上げてきていた彼女が満を持して挑む東大阪の町工場クロニクル。バブル期から現在までの30年にわたる哀感を描く。兄の死によって工場を継ぐことになった弟を主人公にして、この工場で働く工員たち、家族による群像劇だ。この場所を大切にして、ここを守るために必死になって生きる彼らの日常のなんでもない日々を丁寧に切りとっていく。
それぞれの秘められた想いが、ほんのちょっとした仕草や、ささいなやり取りのなかからしっかりと伝わってくる。それを殊更強調することなく、さりげなく感じさせるに留める。実に上手い。ひとりひとりの想いが絶妙のバランスで描かれていくのだ。兄嫁を巡る信金の男と主人公の3角関係がクライマックスに用意されるけど、それだって実にさりげない。お話は波瀾万丈のドラマなのだけど、描かれるのは日常のスケッチ。それがNHKの朝ドラのようなタッチで綴られていく。このささやかなお話は、無理なく力のこもった大河ドラマとして綴られるのだ。
エピソードごとの場面転換にブリッジとして挿入されるナレーション(これがとてもいい!)によって時代の流れを意識させながら、そんな中で彼らのほんの少しずつ変わっていく日々の暮らしと、変わることのない想いが交錯していく。ドラマチックではないのに、とてもドラマチックな物語として作品は完結する。そして、芝居はここで終わるけれども、彼らのお話はここで終わるのではなく、この先の未来に向けて、続く(はずだ)。これは、見るものみんなを元気にさせてくれる。そんな作品なのだ。