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映画・演劇のレビュー

オリゴ党『サヨナフ』

2019-09-12 20:51:53 | 演劇

 

ここに及んで「ぼつじゅう企画」(大竹野正典没後10年記念公演企画)怒濤の連作である。こんなことが起こり得るなんて、彼の生前には想像もしなかったことだ。毎月、複数の大竹野作品が公演されるのだから驚きだ。

 

さて、9月の一番手は、今回のオリゴ党である。岩橋演出による大竹野正典作品という組み合わせの意外性にドキドキしながら見る。違和感はない。確かに普段の岩橋作品とは一味違う。だが、彼らしい丁寧で落ち着いた演出でオリジナルのテイストを生かした作品に仕上がった。ただ、少しおとなし過ぎて彼の個性も後景に沈んでしまったのは少々物足りない。これは岩橋演出なのだ、という他にはないものが前面に出た方がファンとしてはうれしいのだが、それは難しかったのか。無いものねだりだろうか。

 

オリジナル以上に笑いは抑える。禁欲的でシリアスなタッチで終始する。そこは大竹野へのリスペクトか。役者たちの頑張りが作品の精度を高める。彼らの持ち味を生かした岩橋演出も冴える。主人公を演じた今中黎明のおどおどした姿がいい。彼は4人を殺害した加害者であるにも関わらず被害者ずらしている。時間が過ぎて記憶も薄れて、事故を相対化したのか。後半、田中が演じる少年の旅を描く部分も健闘している。彼が居場所を失い旅の途上で自分を見失い、拳銃を構える。殺したかったわけではない。ただ、その先へと向かいたかった。自転車を走らせ、南へ向かい、さらにその先へと。自分の居場所を求めて旅する。逃げ場はない。そんな少年のもどかしさに風穴を開けるのが拳銃だ。

 

30年の歳月を経た永山則夫を演じるふたりの個性がリンクする。その落差の中に彼の獄中での想いの経緯が見えたなら面白かったのだが、台本自体もそこまでは描いていないのでそれは難しい。ただ、岩橋作品らしさを体現した今中黎明の姿を見ているだけで、これは確かにオリゴ党の『サヨナフ』なのだと思うことができる。

 

 


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