初演のアイホール公演も素晴らしかったが、今回の再演はあれ以上に素晴らしい。高橋恵の抑えた演出が冴え渡る。2年前のオリジナルキャストを集結させて、丁寧に3回の講座を見せていく。まるでこのボイストレーニングに自分も参加している気分になる。芝居は物語ではなく、この講座のライブ中継のような趣を呈する。
廃校となった校舎を再利用して市民講座を開講している。だが、市の勝手な要請で突然ここが使えなくなる。10週連続の講座を前任者の突然の降板で後半5回を引き受けることになった、その3週間が描かれる。だが、中心となるのは背景となる姉と妹の確執ではなく、あくまでも夜の時間に毎週ここに集まってくる人たちとのやりとりだ。講座自体が前面に出て、それ以外のものは、後景に沈み込む。高橋演出は、落ち着いたタッチで欲張ることなく、淡々とそこでの彼らの姿を描く。4人の受講生だけでなく、姉妹も、ここの館長のことも、最小限の情報でしか描かれない。最終的に彼らはどうなるのか、なんて当然描かれることはない。まるで断ち切られるように終わる。その手つきの鮮やかさには惚れ惚れする。
登場人物に感情移入して、これをお話にするのではなく、ありのままをドキュメントしたように、ただただそこでの流れる時間が描かれていく。その距離感はなぜかとても心地よい。彼らは確かにここにいて、生きている。そこに存在する。そんな気分にさせられるのだ。仕事が終わった後の夜の時間、ここに集まり、過ごす時間。そのリアリティがこの芝居のすべてだ、と言い切っても構わない。そんなリアルさが見事だ。