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映画・演劇のレビュー

『楽園』

2019-10-27 21:52:30 | 映画

けさ洗濯の合間に「90年代映画ベストテン」を作っていて、日本映画の1位を『雷魚』にした瞬間、いてもたってもいられず、瀬々敬久監督の最新作『楽園』を見てきた。今一番見たい映画だったのだけど、今日まで見なかったのは、忙しくてかなかな時間が取れなかったからだ。だいたい今日だって、午後からクラブだし、その前に芝居を1本見たし、で、夜の回に何とか間に合ったから見ることが出来たのだけど、大変だった。それにしても、まだ公開2週目なのに、もう上映回数が激減していて、焦った。吉田修一原作、佐藤浩市、綾野剛主演の話題作のはずなのに興行的に厳しいのか。

それにしてもこれは衝撃的な映画だった。今年のベストワンだろうと、期待したのだが、そんなことどうでもいい。あまりに辛すぎてショックだった。凄い映画だ、とは思うけど、見ているうちに心がどんどん暗くなる。やがて、人間を信じられなくなる。

これは限界集落で暮らすふたりの男と、ひとりの少女の物語だ。移民の青年(綾野剛)が、少女失踪事件の犯人と目され村人から迫害される。12年後、同じような事件が起きた時、暴徒と化した村人から、追い詰められ灯油をかぶって自殺する。こんな理不尽なことがあっていいのか、と思う。後半は、同じように善意から高齢化した村人たちに親切に接していた男(佐藤浩市)が、ささいなことから村八分にされ、心を病んでいく。この主人公ふたりを繋ぐ立ち位置にいるのが、少女失踪事件のときに最後に彼女を見た少女だ。7歳の少女は12年後、19歳の女の子(杉咲花)になっている。若者はみんなこの村を出ていく。そんな中、彼女はここに留まっていた。だけど、東京に出ていく。ここにはもういたくないからだ。12年前と今というふたつの時間を通して、変わらないもの、変わり果てたもの、その微妙な対比が、描かれる。確かに時間が過ぎたはずだ。そして、村の体質は変わらない。うわさ、が猜疑心を生み、排除する空気を醸し出す。誰が悪いというわけではない。ただ、悪意は充満していて、それが瞬時に噴出していく。その犠牲になってふたりの男が壊れていく。それをみつめていた少女はここを逃げ出す。ラストの犬の目から見た描写も凄い。

美しい田園風景を捉えた空撮と、この閉塞感の対比。映画を見ながらこんなにも息苦しい思いをさせられるなんて、こんな経験はなかなかない。圧倒的な重さと暗さ。凄い映画だけど、辛すぎて、見終えたときには、ぐったりしてしまった。「楽園」というタイトルに込められた想い。どこにもそんなものはない、とは言いたくない。だけど、そのタイトルにある逆説を受け入れるか、否か。それでも、楽園があると信じたい。


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