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映画・演劇のレビュー

劇団大阪『麦とクシャミ』

2019-10-29 21:52:33 | 演劇

 

彼らは、今、目の前にあることをきちんとこなしていく。この作品は、自然の不条理と戦争という不条理を前にして為す術もない人々の姿を描いている。だが、そうであるにもかかわらず、この芝居の登場人物である彼らのたくましさは何だろうか。泣き言も言わず、ただ、為されるがままに生きていく。不貞不貞しいわけではない。無力だというわけでもない。現実を受け止め、そこでただ生きるだけだ。

 

ここに移住してきて、麦畑を耕す。それぞれが夢を抱き、ここにきた。ある者は、逃げてきたのかもしれない。だが、ここで暮らし、ここに根付く。そんな彼らの背景は断片的に見え隠れするが、大事なことはそこではない。今ある現実だ。それを真摯に受け止め、受け入れ、ここで生きていく。それぞれが、いろんな想いを抱いて、いろんな事情を抱えて、ここに流れてきた。何度となく繰り返される地震とそれによる大地の隆起。畑はめちゃくちゃになり、為す術はない。だが泣き言は言わない。

 

昭和19年から21年にかけての出来事だ。そのうちのたった4日間が切りとられる。ピンポイント(基本は郵便局が舞台となる)で定点観測だ。そこにやってくるほんの数人の姿を見つめていく。そこから見えてくる人間の営み。素晴らしい台本(山田百次)を得て、それを演出の小原延之は気負うことなく、自然体で見せる。

 

見事としかいいようがない。役者たちひとりひとりが期待に応える。浜志穂の強い意志を感じさせるまなざし。大西智史の優しさともろさ。マイペースを貫く上田啓輔。中心となる3人だけではない。みんながみんな自然体でこの世界の中で生きている。(僕が見たのは若手によるBプロだが、ベテラン中心のAプロもきっと見事だったはず)声高に叫ぶことはない。卑屈になることもない。自然と向き合い、自然に生きる。すばらしいアンサンブルプレーを成立させた演出と、スタッフのサポート。舞台装置を空中に浮かせる(舞台装置を吊り上げる)という、なんでもない見せ方もいい。

2時間10分という長尺にもかかわらず、こんなにも静かで淡々とした芝居なのに、ずっと緊張感が持続する。もちろん、この静けさは、彼らが向き合うとんでもない災害とセットだ。全編が静と動との対比で描かれていく。その先に見えるのは希望だ。

 


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