
4話からなる短編連作だ。公園を舞台とする。甘い小説だけど、この甘さは嫌いではない。春の風、夏の陽射し、秋の落ち葉、冬の寒さ。四季を舞台にして、4つの公園の4つの風景が4人の主人公たちの人生に局面を鮮やかに描き出す。ここからもう一度始めよう、と思う。そんな彼ら、彼女たちの姿を公園が包み込む。それぞれの場所が印象的に描かれるのもいい。一度行ってみたい、と思った。彼らと同じ場所を歩いてみたい、そんな気分にさせられるのは、この小説がそれだけ魅力的だからだろう。
舞台となるのは、横浜の港の見える丘公園、ムーミン谷をモデルにしたというあけぼの子どもの森公園、投稿23区の端にあるという石神井公園、所沢航空記念公園の4つ。お話もさまざまだ。地方から大学進学で横浜に出てきた女学生。育児放棄した妻と再会する30代の男性。野鳥だけが友だちの高校生の男の子。初恋が忘れられない20代後半にさしかかった女性。
4つのお話がそれぞれ一歩踏み出すまでのお話で、共通する。読み終えたとき、少しだけ、元気になれる。まだ、何も始まってないけど、きっとここから始まるだろうと信じられる。そんな優しさがいい。