
先日見た『山のトムさん』があまりに素敵だったので、それに先立つこの作品を見てみようと思い見始めたのだが、期待(というか、実はあまり期待もしてなかったのだけど)を遥かに凌ぐ作品だった。50分4話からなるミニシリーズ。今まで見た小林聡美によるこの手の映画、ドラマの最高傑作ではないか。今までは忙しかったので無駄に時間を食うTVドラマはあまり見ない主義だったのだけれど、これからは食わず嫌いにならずよくできたドラマはちゃんと見なくてはと思わされた。
こういうさりげないお話は映画より、ドラマ、そして、このくらいのスケールの作品がぴったりなのかもしれないと思わされた。50分程度でその都度休憩しながら見るというさりがなさ。頑張って気合を入れて見る、必要はない。毎回それなりのストーリーは用意はされているけど、そこが大事なのではない。それどころか、毎回朝仕込んでお客さんを迎えて、夕方には売り切れて、店を閉める、という日常のスケッチのほうが大事。なんでもないことの積み重ねがこんなにも心地よい。いつもながらのキャストたちが適材適所に配されているけど、それがなぜか新鮮だ。変わらないことのよさがここにはある。大貫妙子による主題歌も心地よさを高めてくれる。なんだかほんわりして、気持ちいい。
母親の残した店を改装して自分なりの店にしてオープンする。庶民的な居酒屋食堂からシンプルでおしゃれな店で、メニューはなんとパンとスープだけ。こだわりではなく、無理せず自分にできることをするという姿勢だ。転職して飲食店を始めるのは怖い。でも、たまたまこういう機会を得て、流れに乗っただけ。本の編集者だったけど、配置転換で経理に回され、編集から外れた以上この仕事を続ける意味はないから辞職した。自分のやりたいことをしていたい。だけど、最初から飲食店をしたいと思ったわけではない。母親の残した店をなんとかしなくてはならないという要請から始めることになったのだ。
これはなんだか不思議なドラマだ。特別なことは一切ない。こんなにも中身のないお話で実質3時間半のドラマを作れるのか、と心配する。でも、結果は反対だ。このままずっと見ていたい、と思わせる。終わってしまうのが残念でならない。でも、あえてここで終わる。原作もあるし、やろうと思うといくらでも続きは作れるけど、やらない潔さ。素敵な映画の条件を満たしている。最高の映画はその映画の中で永遠に留まりたいと思わせる作品だ、と昔、僕は思っていた。これはそんな昔を思い出させる映画(あえて映画と言おう!)である。いつまでもこの世界でまどろんでいたい。