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映画・演劇のレビュー

『カムイ外伝』

2009-09-20 22:18:19 | 映画
 崔洋一監督渾身の一作。巨大な製作費を注ぎ込み、さまざまな悪条件に見舞われ、ようやく完成にこぎつけた。待ちに待った超大作時代劇巨編。日本映画最大規模と予告編では豪語していたが、それだけのスペクタクルなのに、話は超地味で、しかも、島に籠って漁業に従事する『カムイの休日』って感じの話になっている。ド派手なアクションではない。

 もちろん派手なアクションシーンが皆無だ、なんていうのではない。それどころか見所は満載である。羊頭狗肉ではない。評判通りといって問題ない。しかし、それがこれ見よがしのアクションではないから、全体のお話のなかにしっくり溶け込むのだ。結果的に目立たない。そこがこの映画の欠陥というわけではない。

 そこがこの映画の狙いである。ただのノンストップアクションではない。反対にストップすることを描く。

 抜け忍を執拗に追いつめる追忍たち。凄まじい攻防戦を見せる。それが最初から最後までの全編を彩る。だが、そんななかでカムイが立ち止り人間らしい時間を過ごすことが映画の要だ。そういう構造は意外だが、悪くはない。差別の構造がもっと前面に出てくるか、と思ったが、そこは思ったよりも淡白な見せ方だった。これも意外だ。

 と、いうことで、波乱万丈の映画を期待した向きにはちょっとがっかりさせることになるかもしれない。だが、カムイ演じる松山ケンイチの好演で、緊張感のある映画になった。映画全体が彼を追いかけることだけで成立していくのがいい。ナイーブな青年の憂愁だけでは本来この題材では駄目なのかもしれないが、孤独な青年がただひたすら逃げていく過程で、心安らぐ瞬間がきちんと描かれる。そんな描写が映画の中で大きな部分を占めている。

 島での日常がけっこう全体のバランスを崩すほどに長く、退屈する人もいたかもしれないが、渡り衆との描写も含めてこの後半で、カムイがほんとうに漁師になるのではないかなんて思わせるのがいい。一瞬でもそんな平和が彼の胸をよぎる。まぁ、それはないと彼自身が一番よく知ってるのだが。

 ほんとはもっと過酷な描写をそれまでの場面で重ねなくてはこの楽園のシーンが生きてこないのだが、全体の尺の問題もあり、止むに止まれずこういうバランスに欠く展開になったのだろう。2時間ではこの映画に必要なことはとても描ききれない。

 この穏やかな日々の後、映画は一気にクライマックスになだれ込む。惨劇のあとを目撃する衝撃、そして、カムイの怒りが爆発する。ラストの伊藤英明扮する不動との対決がすばらしい。

 正直言うとこれは映画としては問題が多々ある作品なのだが、これだけの大作をこんなにも個人的な映画にして仕立てた崔洋一監督の思い切りの良さにまず敬服する。妥協しないで我が道を行く、って素敵だ。誰にも文句を言わさない。「責任は俺が取る」っていう覚悟のほどがしっかり伝わってくる映画だ。映画としては不備だらけで納得のいかないものかもしれない。だが僕は嫌いではない。

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