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映画・演劇のレビュー

重松清『くちぶえ番長』

2007-09-15 20:32:29 | その他
 とてもかわいらしい小説だ。雑誌「小学4年生」に連載されたものらしい。なんだか、懐かしい。昔読んでいたよ。学研の「化学と学習」と並んで、小学館のこの「小学X年生」は子供の必須アイテムだった。(ほんま、かい!)

 だから、この小説は小学4年生を対象にして書かれた児童文学なのだが、子供向けとか、大人向けなんていう区分はこの際全く意味をなさない。まず、誰が読んでもおもしろいこと。それが小説においての何よりの条件であろう。これはそこを満たしている。

 スポーツ万能で、頭もいい転校生マコト。頭にちょんまげ(髪を頭の上で一つくくりにしているだけだが)をした女の子だ。彼女がツヨシのクラスにやってきた1年間が描かれていく。

 まず、このタイトルに心惹かれた。「くちぶえ番長」って一体なんだ?だいたい今時、死語となった「番長」なんて言葉を復活させることで、何を描こうとするのか。(このタイトルはまず『ゆうやけ番長』を思い出させる)テーマはもちろんこのタイトルにある。

 「番長」はみんなに好かれて、みんなを守る、正義の人でなくてはならない。かっていたガキ大将の復権。そこに「くちぶえ」という、これもまた今ではあまり聴かれなくなったシンプルで美しいものをくっつけることで生じる、なんともいえないレトロな香りが興味深い。この小説はこのタイトルに象徴させた重松清の子供たちへの願いが描かれていく。

 子供世界も大変なことがいっぱいあるだろうけど、(実際は大人以上に大変かもしれない)へこたれないで生き抜いて欲しい、という想いがこの物語には託されてある。単純に見えて、大変な事をいかに乗り越えていくか、それが軽妙な文体でしっかり描かれる。イラストも可愛い。あまり深く考えず読んでみるといい。枝葉末節ではなく本質的な問題がここには描かれてある。

 何よりも、マコトとツヨシという魅力的な2人が、1年間を通して友情とほのかな恋心を育んでいく過程を追っていくだけで幸せな気分にしてくれるのがいい。とても元気がもらえる小説だ。

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