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映画・演劇のレビュー

『夏物語』

2007-09-15 21:07:02 | 映画
 なんだか懐かしい感触のする映画だ。昔、日本ではこういうアイドル映画がたくさん作られていた。特に70年代から80年代にかけて作られた山口百恵と三浦友和主演の東宝文芸映画群を思い出した。美しい自然の中での若い2人の悲恋物語が同じようなストーリーで幾つも作られ続けた。美男、美女による切ない恋を定型の文芸映画として作る。『伊豆の踊り子』(74)からスタートして、『潮騒』『絶唱』そして、『風立ちぬ』。(さらには『炎の舞』なんてものまで!)それらはその時代、その時代のスターたちによって何度もリメイクされた作品群だ。

 このイ・ビョンホン主演の映画は、あの頃の映画の香りが濃厚な作りで、正直言って作り方がとても緩いし、映画としてはどうだか、と思うが、彼のファンの女の子たち(そんなものがいるのか、は疑問だが)のためだけに作られ、彼がそこにいるだけで、彼が苦悩して、かっこよかったらそれだけで充分映画として成立するなら、それで合格点を与えていい、そんな映画なんだろう。

 アポロが月に着陸した年。農村への勤労奉仕に出かけたソウルのエリート大学生が、そこで訳ありの綺麗な女性(スエ)と出会い、恋をする。2人は豊かな自然の中で、少しずつ愛を育むが、やがて別れがやってくる。しかし、別れ難い2人は手に手をとってソウルまでやって来るが、時は政治の季節。大学構内で学生運動のデモに巻き込まれた2人は、別れ別れになる。警察に拘留された2人。彼女の両親が政治犯で、北朝鮮への脱北者であることが分かる。引き裂かれる2人。しかし、2人の愛は終わらない。

 ここまで、書いてきて虚しくなる。こんな内容の映画を2時間も見てきたのか、と改めてその事実に愕然とさせられる。こんなもの見てる暇があれば、もっとやることがあるだろ、なんて声が聞こえてくる。見ながらも、凄いメロドラマで、途中から「いいかげんにしてよ」と何度も思ったが、何とか最後まで見れた。決して安直な作りではなく、丁寧に描かれてあるので、嫌ではなかったからだ。ただ、もう少し抑制の効いた描き方が出来たならよかったのに、とも思う。ドラマが情に流されすぎるのだ。

 ただ、前半の農村ののんびりした描写はとてもいい。懐かしい風景の中、ゆったりとした時間が描かれる。自然がとても美しい。実は、あの風景が見れただけでも、この映画は悪くない、と思うくらいだ。『天然コケッコー』を思わせる。(どういうつながりだよ!)

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