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映画・演劇のレビュー

『屍者の帝国』

2015-10-20 23:01:16 | 映画

これはすごいスケールの映画だ。アニメーションだからできる、というと、それまでだが、こんなにも志の高いアニメ映画はなかなかない。だいたい、この企画自身が凄すぎた。伊藤計劃の3作品を一挙に映画化するという企画を知ったとき、これはオムニバスなのか、と思った。でも、短編として作れるような小説じゃないし、と手にしたチラシをじっくり見た。そうなのだ、3作品を同時に紹介する豪華なチラシが、確か、この夏くらいに劇場に出たことでこの作品の存在を知った。

でも、それがこんなにも、凄い企画だなんてその時点では思いもしなかった。というか、10月の公開が始まったときにも、思わなかった。低予算の安易なアニメ映画か、と高をくくっていた。しかし、見て驚いた。すごいクオリティの高さ。圧倒的な迫力。どんどんストーリーに引き込まれて、とんでもない2時間の旅を堪能する。久々に「あぁ、映画を見たな」、という気分にさせられた。(こんなにも毎日のように映画を見ているくせに、である)

ロンドンからボンベイ、アフガン、さらには東京。海を越えてサンフランシスコへ。世界を一回りして再びロンドンへと。屍者をよみがえらせる技術をものにした19世紀末の世界を舞台にして、もうひとつのありえた、かもしれない「世界」の壮大な物語が始まる。

屍者がゾンビ状態で、自分の意思もなく、おとなしく、従順に生者に殉じて生きる。彼らは戦争や、使役に従事して、生者の奴隷のようにして、暮らしている。食べ物もいらず、人間のために働き、暮らす。この世界には、精巧なアンドロイドも存在する。彼らもまた人間のために働くのだが、屍者とは違って、心を持つ。

屍者に心を持たせることは可能なのか。フランケンシュタイン博士によるモンスターは心を持つことで破滅した。その後、封印されていたその秘密のベールが明かされる。禁断の書は世界を救うのか、破滅させるのか。主人公の医学生ワトソン(この名前に注目!)が、屍者となった親友をよみがえらせて、彼に心を与えるため禁断の書を求める旅に出る。これは冒険ものとしても、ドキドキさせられるし、何よりもこのストーリー自体がおもしろい。いったいこれはどこに行きつくのか、先が読めない展開だ。

円城塔による原作小説(伊藤計劃の原作が彼の死で30ページほどで絶筆になり、その先を彼が書いた)は読んでなかった(読もうとしたけど、挫折した、ような気がする)から、こんな話だったなんてまるで知らないまま、映画を見た。それにしても、あの(きっと)難解な小説を、よくもまた、こんなにも、わかりやすくて、深い内容のエンタメ映画にして、2時間にまとめたものだ。感心する。しかも、重厚なのにフットワークは軽い。見事としか言いようがない。

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