習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

奥田英朗『沈黙の町で』

2013-07-11 21:36:46 | その他
いやな話だ。中学校の校内での死者。生徒だ。部室の屋上から転落。中二の男の子。それは事故か、自殺か? 

4人のクラブの同級生によるイジメがあった。死の直前4人と一緒だったことで彼らは警察に拘留される。被害者と加害者。彼らの親たち。警察と学校。マスコミ。それぞれの立場から事件が描かれていく。ひとつの事件の背後にあるたくさんの人たちのそれぞれの思い。事件の真相はどこにあるのかが解き明かされていく。

500ページに及ぶ長編の中で、丁寧にそれぞれの立場から見えてくるものが描かれていく。何がここであったのか。途中から事件に至るまでの出来事がクラスメートの少女の目から描かれていく。死んだ少年が、どんな子供だったか。なぜ、そこに至ることになったのかが、見えてくる。誰が悪いというわけではない。もちろん、ひどい生徒もいる。被害者と加害者4人だけの問題ではない。大体加害者となっている4人にしてもそれぞれ違うし、被害者以上に可哀想な子もいる。誰がマシで、誰が酷い、とかいう、程度の問題ではない。犯人探しが目的でもない。

中学2年というとても危うい時間が描かれる。中途半端に大人になりつつある。だから、本人にも、周囲にもわからないものがそこにはある。みんなあの厄介な時間をやり過ごして大人になった。でも、過ぎてしまえばもうあの頃の苦しみとか、しんどさとかは忘れる。そんなもの覚えていたくもないし。ここに描かれるのは地獄のような日々だ。子供であることがあんなにも辛かった。世界が狭いということは、少しでもその世界が自分と合わなかったなら、地獄でしかない。

子供たちは自分のことで精一杯で相手を思いやるゆとりはない。だから、時として必要以上に残酷になる。だから、標的になった側はたまらない。大人には言えない。言ったところでどうなるわけでもない。だが、言わなければ、どんどん惨いことになる。強い者はいい。弱い者には逃げ場はない。あんな時代に戻りたくはないな、と思った。世界はあまりに狭くて息苦しい。自分にできることなんてしれている。憤りをぶつける先はない。凄まじいストレス。それをなんとかして、誤魔化しながらやり過ごす。誰もが身に覚えのある、あの頃の嫌な気分がよみがえってくる小説だ。

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