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映画・演劇のレビュー

『サラの鍵』

2012-09-26 22:46:39 | 映画
 これは壮大な冒険物語だ。1942年フランス。ナチのユダヤ人狩りの犠牲になった人たちの悲惨な体験が描かれるのだが、それをサラという少女の目線から描く部分と、現代からあの頃何があったのかを調べていくジャーナリストの視点から描く部分が交錯していく。2つの時代がやがてひとつにつながる。70年以上の歳月を隔てて、サラのなぞを追う女性の想いが、たくさんの人たちの心を動かしていく。

 これは過去のお話ではない。あの時代から連綿と続く歴史の中で、いくつもの家族がその先で生きていて、サラと、彼女の弟の死という事実を通して見えてくるドラマは、かつてあった悲惨な出来事なんていう思い出にはできないことを教えられる。

 サラの息子に出会う終盤の展開から、ラストまで、とてもよくできている。知りたくもなかった事実を知らされた息子が、本当の母親と出会う。ずっと以前、自殺した彼の母親であるサラ。彼女の想い。なぜ、幼い子供を残して死んだのか。幸せになっているはずの今頃になって、自殺しなくてはならなかったのはなぜか。

 でも、それは不思議なことではない。彼女が壊れていくのは、いくつもの苦難を乗り越えてここまで来たからこそ、かもしれない。それくらいに彼女の心の闇は深かったのだということを知る。たくさんの人たちが、彼女を生かした。生き延びた、としか言いようがない。でも、せっかくのハッピーエンドに彼女は耐えられないくらいに傷ついていた。心を病んでいく彼女に夫は何もできなかった。

 年老いた彼女の夫が、息子に母親の最期を語る。封印されていたものは白日のもとに曝される。だが、それは不幸なことではない。真実を知ることで、見えてくるものを人は大事にする。知らなければよかった、なんてことはないのだ。どれほど傷ついても知る権利が在る。その上で生き抜くべきなのだ。晴れ晴れとしたラストだ。気持ちのいい終わり方だった。



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