
震災から5年。福島。海に埋もれた遺品を回収して、遺族に届ける。だが、その行為は違法で、正義からではなく、お金儲けにつながるから。罰せられる可能性のある行為を通して、自分が変わっていく。震災後、死んだようになっていた男がこの行為を通して生き返る。自分のなかに新しいなにかがよみがえる。
いや、果たしてそうなのか。死んだものはもうよみがえらない。生き残った自分はラッキーだった、とは思わない。でも、命を取り留めた。妻は彼が生きていてくれて、それだけで、神様に感謝する、という。2人の幼い子供たちも彼がいるからうれしい。お父さんがいてお母さんがいる。そんな当たり前のことが、こんなにもうれしいのは、あの震災でたくさんの死を見たからだ。
福島の海に潜る。そこには海に沈んだ町がある。たくさんの人たちの流された想いが今もそこには渦巻いている。そこから、一部を持ちかえる。他の人たちにとってはつまらないものでも、家族を失った人たちにとってはかけがえのないものもある。特定の誰かの持ち物を捜し出してきて、手渡すことなんか、できない。でも、誰かの何かを持ち帰った時、それだけで、誰も、を喜ばせることが可能なら、そこに意義を見出すことができる。
月夜の海で彼は残骸をかき集める。そんな行為を通して、何かが変わってくる。静かに少しずつ、変わっていく彼と彼の周囲を通して、どこにたどりつくのか。
作品としては少し終わらせ方がまずい。中途半端なラブストーリーなんかには出来ないから、それはいい。だが、この行為を通してどこにたどりつくのかが見えてこないのは難点だ。困難は承知だ。あきらかなお話の決着もない。ここには終わりなんかはないからだ。しかし、作家としての決着は欲しい。