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映画・演劇のレビュー

奥田亜希子『夏鳥たちのとまり木』

2022-07-16 11:48:27 | その他

こんなつらい小説は読みたくはない、と思わせるくらいにいろんなことが心当たりのある作品で、でも、こんなにもこれに心惹かれるのはそれだけではなく、この作品の完成度の高さゆえだろう。お話は先日の今年上半期公開の日本映画ベストワンに選んだ『流浪の月』ととてもよく似ている。でも、こちらのほうがリアルだ。

母子家庭で、母親はほとんど帰ってこない。ひとりで過ごす夏。お金もない、身寄りもない。壊れたクーラー。家には居られなかったからだ。中学2年の時、夏休み、ネットで出会った男のところに2週間身を寄せた。生きていくための避難所が欲しかった。15年後、中学教師になっている彼女のクラスの女の子が行方不明になった。数日後、生徒は無事に帰ってきたが、どこに行っていたのかは言わない。彼女の中で、そのふたつの事件、時間が重なる。さらには傷ついた雛鳥を保護したにも関わらず死なせてしまう、という出来事も。

15年前に封印していた記憶がよみがえる。過去と現在、そして未来へと、お話が展開していく。15年前、何があったのか。彼女を助けてくれたナオという男は何者だったのか。クラスの生徒の失踪とその後を描くお話の決着のつけ方が少し納得しない。だからラスト50ページ、それまでにあったあの緊張の持続を止めてしまうのは残念だ。だが、そこまでの150ページほどは凄い。彼女を助ける同僚の中年教師のエピソードも胸に痛い。奥田亜希子は『求めよ、さらば』『彼方のアイドル』と2作品連続で刺激的な傑作を生み、今回はさらにその上を行く勢いだった。

お話は学校現場の過酷な現実を背景にしている。僕も40年間、そこにいた。クラブの朝練で朝7時には学校に行き、夜は7時までクラブがあるから8時まで学校を出られない。そんな毎日をずっと続けた。もちろん土日もクラブはあるし、夏休みや冬休みは練習だけではなくずっと試合も続く。でも、それは自分が好きだったからやれたことだ。それだけの時間をつぎ込んだが、仕事はクラブだけではない。というか、クラブは仕事の余技だ。クラス担任も好きだったから、やれる限り引き受けた。10回、28年担任をした。(転勤等で2年欠けたので、3年の担任は8回しかできなかったが)授業もしてるけど、学校の仕事で(一番大事なはずの)授業は片手間でするしかない。(忙しすぎるから)そして、何よりも大事なことは、この小説でも描かれるような子供たちの問題だ。問題を抱えた子供たちとどう向き合うか。

心当たりのあることだから、それだけにどういう決着をつけるのか、それが気になった。家族との関係にまで踏み込むことは難しい。学校だけでは解決しない様々な問題を抱える。ずぶずぶ踏み込んで身動きが取れなくなることも何度となくあった。自分のしてきたことが、よみがえる。だから、こんなにもつらくなったのだろう。

誰かが助けてくれなくては、死んでいたかもしれない。でも、誰にでも、うまく手を差し伸べてくれる人がいるわけではない。読み終えたとき、少しがっかりした。でも、これはこれでいいかも、とも思った。

 


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