前半は素晴らしい。この小説は2部構成で、2つの中編小説が収められる。ふたつでひとつだ。ふたりの主人公のそれぞれの側面から同じ時間(20数年に及ぶ)を描いていくのだが、護の目からふたりの歴史を描く『フラット』と、後半、徹子の目から描く『レリーフ』のあまりの違いに戸惑うばかりだ。まるで別の小説を読んでいる気分になる。そして、いろんな謎が解き明かされていく『レリーフ』はつまらない。
『フラット』がおもしろいのは不思議なことが、説明もなく描かれ、でも、そんなこともあるのかな、と思わせるところにある。そんなささやかなお話なのだ。男女の気持ちなんてお互いに謎ばかりで、相手の想いを知りたいと思ってもなかなか知れない。だから、怖いし、面白いのかもしれない。恋愛上手な人もいるのだろうけど、僕は苦手だから、この主人公の気持ちがよくわかる、気がする。幼馴染で生まれたころからずっと一緒だったふたりなので、恋愛感情なんか抱けない。だけど、彼は他の誰よりも彼女のことがわかる、気もする。
こういう恋愛小説もありかも、と思った。ふたりの間には甘い雰囲気なんかないし、恋愛感情も抱いていないけど、お互いを大切に思っているし、気になる。27歳になり、距離が出来てしまった、ところで終わる。この中途半端さもいい。
だけど、それが後半であるもうひとつの小説(彼女の視点から描かれる)『レリーフ』になると一転して、それまでの彼女の不可解な行動や、態度が何だったのか、すべて説明される。興醒めだ。しかも、未来が見えるとかいう、SFみたいな話になるし、親友を死なさないために未来を変えるとか、正直言うとどうでもいいような小説になる。せっかくの素敵なお話がこれでは台無しである。最初から加納さんはこのつもりで書いていたのだろうか。種明かしのせいで、せっかくの『フラット』の感動も薄れてしまう。
特に終盤、カタリとの結婚式に至る過程なんてそれはないだろ、と思う。伏線を回収することでつまらなくなり、さらにオチ、悪の権化カタリの登場から、彼との対決という部分がつまらなさすぎ、ラストも安易。子供を守るため彼と結婚するとか、ありえない。これはあくまでも護と徹子のお話なのだ。そこを大事にして欲しかった。