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映画・演劇のレビュー

『スポットライト 世紀のスクープ』

2016-04-17 18:48:50 | 映画

 

最近、金曜日の夜は封切りしたばかりの(初日の、という意味だ)映画を見に行く。そのわけは、僕が金曜の夜に時間がとりやすいのと(クラブが基本的に休みなので、)最近あまり芝居を見に行かなくてもいいからだ。さらには、映画が地味な作品は公開から1日で小さな劇場に追いやられることが多いからでもある。(驚くべきことだが、それが事実なのだ。特に梅田のTOHOシネマズは劇場の大きさに差があるからそうなる。)この映画も初日だけ、2番スクリーンで、その後の土日は7階に移る。(もちろん、それはこの映画が地味だから、だけではなく、土曜からコナンが公開されるからだ。それに、この映画は僕が知らないだけで、実は結構注目されているらしい。今年のアカデミー賞の作品賞も受賞したらしい。(僕は知らなかったけど、ふつうの人ならみんな知ってるよ、と妻に教えられた。)

 

たしかに、金曜の夜の回は、それなりに客が入っていて驚く。600人くらい入る劇場に60人くらいは入っていた気がする。(まぁ、入っていると言ってもそんな程度だけど、先週の『ルーム』なんてもっと少なかった。でも、それでも、この2本は今注目の作品らしいのだから、そこから今映画館がどれだけ寂れているか、というのがわかる。公開から4日目の夜に見た『モヒカン故郷に帰る』なんて、梅田で12人だった。)

 

ここまでが、雑談。最近僕の授業も(何度か書いているけど、学校で働いている)そうだが、雑談ばかりでなかなか本題に入らないのが特徴だ。よくない傾向なので気をつけよう。

 

さて、この地味な映画が、これだけ感動的で、ちゃんと世間から注目を集めているのが、うれしい。トム・マッカーシーは『扉をたたく人』というこれまた超地味アート系映画で出会って、絶対好き、と思った。昨年、なんとベン・スティラー主演のメジャー映画(でも、なんで彼がこんなファンタジー系ハートウォーミングを手掛けるのか!)『靴職人と魔法のミシン』という作品を作り、なんか、悪くはないけど、(というか、期待以上に面白かった。でも、ただの職人監督になるかも、と心配したのだ)そんな方向に行くのか、と懸念した。でも、そんな僕のおせっかいな感想は杞憂に終わる。

 

これはメジャー映画とインディペンデントな映画の見事な融合を示す傑作だ。先の2本はここに至るための布石だったのか、と思わせるほど、見事な成長を遂げる。

 

ボストンブローブ紙の特集チーム「スポットライト」が、新しく来た編集長から指示を受け、とんでもない権力に挑むことになる。よくあるパターンなのだが、それをめちゃ地味に描いていく。地道な調査と、でも、不可能な取材。勝ち目はない。でも、根性ではなく、少しずつ結果を積み重ねていく。そんな塵のようなものが積もって、核心に向かっていく。こんな映画はありそうでない。そこもまた、トム・マッカーシーだからこその功績だ。

これまでの彼のキャリアとこの映画が重なる。たった4人のチームがカトリック教会のありえない隠蔽工作を暴く。巨大な権力の前で個人は無力だ。今までたくさんの人たちが泣き寝入りしてきた。その犠牲者が教会に通う子供たちだったという事実。彼ら4人はペンを武器にして戦う。彼らだって最初は無力だ。自分自身が、いろんなことを信じてなかった。だが、取材を通して彼らは目覚めていく。この犯罪を明るみに出し、子供たちの未来と過去を守る。

 

内容について細かく書くのは趣味ではない。どこかを見たなら書かれてある。そんなことより、この映画が描いた熱い想いを伝えたい。絶対なんかない。きっとたどりつける。でも、焦ってはならない。それは自分だけの問題ではない。スクープを他社に出し抜かれてはならないけど、でも、一番必要なことは正義を貫けるのか否かだ。終盤マイケル・キートンが下す判断が映画にクライマックスだ。バットマンの昔から、ようやくたどりついたのが、ここだったのか、と思うと感慨は一塩だ。素晴らしい映画を見た。


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