思いがけない傑作と出会う。最近僕はついている。あまり期待せずに読み始めたのに、こんなにも凄いものと出会い、感動している。だって、悪いけど、津村記久子である。いつも、(そんなには悪くはないけど、)ほどほど程度だった。マニアックで地味。(すみません!)なのに、なんだぁ、これは!!
もちろん、今までの仕事の流れから生まれたことは必至だろう。特別新しいことをしているわけではない。しかし、このファンタジーのような美しさはどうだ! なんでもない日常のスケッチなのに、この不思議感満載の5つの職場に驚くしかない。こんな場所がこの世界には確かにある。その当たり前の事実に打ちのめされる。ごめんなさい、今まで僕は何も知らなかったです、なんてわけもわからないまま、誰かに謝りたくなるような小説なのだ。とはいえ、もちろん、謝るのは津村さんにではない。
彼女が(主人公の女性)が体験するのは「みはりのしごと」「バスのアナウンスのしごと」「おかきの袋のしごと」「路地を訪ねるしごと」「大きな森の小屋での簡単なしごと」の5つだ。(今書いたそれぞれが1章から5章のタイトルだ。特に前半の3章が素晴らしい。(後半の2章は少しお話に作為的な部分を感じた。)
お仕事小説は僕たちの知らない世界を教えてくれるものだけど、こんなにも淡々とワンダーランドにいざなうものって今までなかった。この津村さんの気負いのなさが凄いのだ。職安でなんとなく与えられた仕事を受け、ほんの短い期間そこで働く。(本人はそんなにも早く辞める気はないのに)なんと1年で5回職を転々とする。
これは5話からなる短編連作のスタイルを取る。でも、立派な長編だと胸を張れる。(というか、僕がそんなところで胸を張ってどうするんだ?)仕事と彼女の距離感がすばらしい。それが作者のスタンスでもある。津村さんにしか書けない。彼女の控えめな姿勢が作品を成功させたのだと思う。