
再演である。平田オリザが他者の書いた戯曲を演出するのは珍しいことだ。初演は2020年3月、のはずだった。しかし誰もが知っているようにコロナのせいで中止。翌年ようやく公演された。とても面白い芝居だった。
まさかの展開には唖然とする。特殊詐欺の男がやって来て、お金を騙し取ろうとするところから静かだったお話は大きく展開する。まさかの全員認知症なんていうバカバカしい話にまでシフトしていく。そこが笑える芝居だった。
だが今回オチを知った状態で再見して、かなり違う印象をを受けた。お話ではなく彼らの変わらない日常が前面に出てくる。平田さんが作るのだからこれはよくあるようなコメディにはならない。彼はこの戯曲をしっかり自分の世界に落とし込んでいることに改めて気づく。
山深い田舎の集落で馬留徳三郎と妻のミネは二人暮らしていた。毎日穏やかな一日を過ごしている。変わらない毎日が続く。これはそんな彼らのある日のスケッチだ。きっと明日もまた同じような日が続く。ここには盛んに施設で暮らす人たちがやってくる。それはそれでいい。それもまた彼らの日常なのだ。
ここにやって来た詐欺男もまたいつの間にかこの村に取り込まれていく。彼はふたりの息子(実はもう死んでいる)として心地よい暮らしを始める。これはアリスが迷い込んだワンダーランドと似ている。ここには本当なんていらない。変わらない毎日を幸せに享受する。それだけ。
そして芝居はラスト、高校球児の夢である(それは徳三郎の夢でもある)甲子園に彼女(妻)を連れて行くという幸福な幕切れになる。これはある種のファンタジーだけど、認知症をこういうふうに描くのは新鮮だった。