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映画・演劇のレビュー

真紅組『おしてるや』

2013-10-08 22:24:21 | 演劇
道頓堀のZAZAで、道頓堀誕生秘話を舞台化するという企画がおもしろい。こんな事実があったなんて知らなかった。道頓堀がなぜできたのか。歴史の真実に迫る作品である。だが、そこは真紅組だから、重くて暗い話にはならない。明るくて楽しいステージの中で、感動的なドラマを作り上げる。安井道頓と言う男が村の仲間を募って大事業を行う。南端が堀止になっていた東横堀川と西横堀川を結び木津川へ注ぐ堀川の開削をするのだ。だが、志なかばで、大坂は火の海となる。大坂夏の陣だ。

今回の真紅組のこの新作は、僕が今まで見た彼らの作品の中で一番おもしろかった。実在の人物に取材し、いつものばかばかしい笑いと、殺陣やダンスシーンをふんだんに盛り込み、楽しくて、泣かせる人情劇を作る。派手な殺陣は冒頭の大坂夏の陣シーンだけだが、難波の庶民のパワーが全開する活力溢れる作品になった。

一応これは安井道頓という商人を主人公にして、彼が大坂に堀を作る話のはずなのだが、なんと主人公である彼は冒頭の大坂夏の陣で死んでいる。なのに、芝居はそこから始まるのだ。なんともふざけている。

大坂中が焼け野原となった後(ドラマは彼が死んだ後)、堀の工事も頓挫したままで、もう再開は不可能と思われていた。しかし、幽霊となった彼が、彼の周囲にいた家族や仲間たちと共にその夢を実現していく様が描かれていくのだ。それをとても軽いタッチで見せる。道頓を演じる愛飢男がとてもいい。飄々として、生きている人たちの間をすいすいとすり抜ける。彼の姿は、従兄弟である久兵衛(阿形ゆうべ)にしか見えない。彼は道頓の志を継ぐには軟弱すぎて自分に自信が持てない男なのだが、幽霊である道頓に導かれて、周囲の助けもあり、この難事業を成し遂げる。同じ安井姓の安井算哲を描いた沖方丁の『天地明察』を思わせるドラマだ。

台本を担当した阿部遼子は、いつものわかりやすいドラマ作りを踏襲しながらも、実話とフィクションのはざまでバイタリティー溢れる難波の庶民の生きざまを丁寧に描きこむ。この土地に流れ来た女たち左近一座の物語から語り起こしたのがいい。遊女であり、踊り子でもある彼女たち一座の面々の力強い生きざまが、周囲を動かしていくという図式がいい。演出の諏訪誠も今回は役者たちの個性を抑えて、まずドラマを立ち上がらせることに徹した。そのいつもよりは幾分抑えたタッチは最後まで崩れない。史実のエッセンスを忠実に再現する。もちろんエンタメ作品なのだ。だが、中途半端にはしゃぐことなく、テンポよく最後までこの群像劇を見せきる。見事だった。


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