もう20数年前たまたまつけたテレビでアィーダのオペラを放映していた。まだオペラについては何も知らない頃だったが、じっくり見てしまったのは素晴らしい音楽と歌のせいだった。
ちょうどエジプト人の将校ラメダスとエチオピアの王女アィーダが地下牢で愛を語り合いながら死んでいくところで、舞台の左下が地下牢、舞台の右上のお城の上でラメダスを恋い慕うエジプトの王女アムネリスが悲しみながらメゾソプラノで歌っている。
この場面は20数年後の今でもしっかりと思い出すことができる。そしてこのオペラがきっかけになって、オペラハウスやイギリスオペラのコロシアムへも行ったし、最近はやりの映画館での実況中継やトラファルガー広場で無料で見せてくれるオペラハウスの実況中継にも足を運んだ。
オペラのCDやDVDも買い集めストーリーと歌を何度も見聞きしながら夢中になったものだ。
アィーダのテレビを見た数年後ロンドン・オリンピアで映写によるアィーダを上演するというのでチケットを買って一人で行った。オリンピアは広大な展示会場で、舞台はずいぶん遠くにあって舞台装置が映写によるもの。歌手は舞台で動き回り歌っているがもちろん顔など見えない。ラメダスの額が時々光るので、彼は禿げているのかと思って双眼鏡(この時はオペラグラスなどという上品なものも持っていなかった)でしっかり見たら頭にはめていた銀のヘッドギアだった。会場は観客がびっしり詰まり、よくもこんなにオペラ好きの人たちがいるものだと驚いた。
それでも初めて見るアィーダ、感激して目を皿のようにして夢中で見ていた。最後の4幕目二人が石牢の中で死んでいくクライマックス。 突然隣の女性の携帯電話が鳴り響いた !!!
慌てふためく彼女はなかなか携帯が見つからない。やっと音が止まったときは周りの人たちは憮然。最高のクライマックスを聞き逃した。するとまだ最後の音楽が止んでいない時に隣の女性がスックと立ち上がり出ていこうとした。とうとう後ろのおじいさんが怒り心頭、”どうして座って最後まで聞かないんだ”。そしたらその女性も大声で反論しだして、その間に素晴らしかるべきアィーダは終わってしまった。
あんなに残念なことはなかった。
それで90年も後半、日本人の友達2人と一緒にオペラの殿堂イタリアのヴェローナへ3泊4日のオペラ旅行に出かけた。着いたその夜がかの有名な円形劇場のオペラ上演の初日に当たるが、私たちがヴェローナに着いたのは夜遅く、この夕方からの大雨で初日は翌日になった。
初日の出し物はナブコ、これもグランドオペラで英国で入場料100ポンド払っていたから、舞台から5列目の良い席だった。頭をぐるっと回さないと舞台全体が見えないくらいだった。
翌日の出し物がアィーダでとっても楽しみにしていたのに・・・・・。
2日目は私がケチって75ポンドの座席を買ったところ、なんと階段席の下部で石段に座らせるには気の毒だと考えたものか、階段2段にメタルの座席をセットしてあり、足が下に届かない。
おまけに座席の後ろは真っすぐ横に伸びたメタルの棒で、寄りかかれない。
あんなに座り心地の悪い座席に座ったことはない。それも3時間もこの座席に縛り付けられて。
クライマックスの最後のシーンなど、感激どころか 早く終わらないか、早く死んでくれ、とばかりに願って全然歌が耳に入らなかった。
数年前ベッケンナムの映画館で、オペラハウスからアィーダの実況中継というので一人で行った。映画では出演者の顔も衣類も大写しにして見せてくれるので、天井桟敷から舞台半分を見下ろすなんてこともないし、料金も当時は12ポンド、(今年は20ポンド50ペンスに値上がりしているが)
小さな映画館は年寄で満席、不思議とオペラファンは年寄が多い。私もその一人だから文句は言えないが。さすがオペラハウス。出演者も素晴らしい声で、舞台装置も文句なし。
ところが第4幕目、最後のクライマックスで突然真っ暗になり映像が映らない。音楽と歌だけはしっかりと聞こえてくる。一瞬ざわついた観客席は静かに歌声を聞いて最後まで誰一人立つ人もいなかった。
さて終わって怒り狂った老人組がフォイヤーで映画館の係員を問い詰めているころ、翌朝早くに旅立つ私は急いで家に帰らなければならなかった。
アィーダのクライマックスは私には縁がないのかも・・・・・ガックリ。
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