イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

『古畑』では“あのよ節”

2007-05-04 21:38:59 | アニメ・コミック・ゲーム

怪奇大作戦セカンド・ファイル』の放送に合わせて、NHKBS‐2では4月30日~5月3日までオリジナル『怪奇大作戦』の中から一部が、数話ずつセレクトで再放送されていました。こちらは毎夜26:00に及ぶ深夜。あのどろんと濃く暗い映像を立て続けに3話も4話もリアルタイムで観る自信が、さしもの月河も心理的肉体的ともに無かったので、全放送分録画。

それでも、あー、いまオリジナル『怪奇』やってるんだよなぁ…と思うとまんじり就眠もできないもんで(弱)、昨夜は『壁抜け男』と『死神の子守唄』だけを、消灯後ベッド上で視聴。

68年(昭和43年)の本放送スタート初っ端を飾った第1話『壁抜け男』は、忘れられた奇術師の歪んだ自己顕示欲が起こした犯罪を扱っていますが、その自称“キングアラジン”の、自己顕示すんならもーチョット何かなかったのかよ!という志村けんさんもビックリのお笑いメイク、目の前で仏像盗まれて壁抜けられていく間じゅう「待てーー」しか言えないアホ警官、日本舞踊のステージから盗まれた宝玉を追って黒子ルックに足袋のまま飛行場まで追いかけて、まんまヘリコプターまで操縦してしまう町田警部(小林昭二さん)など、全体としては犯人の狂気が醸し出す『怪奇』ならではのゾクッと感より、むしろコミカルスパイスをまぶしたサスペンス活劇の趣き。

一方、『死神の子守唄』は深刻そのもので、本放送時も、子供心にいちばん重い余韻が残ったエピソードのひとつでした。

母親の胎内で被曝し、白血病を発症して余命短い女性歌手と、彼女を治したい一心で放射線を研究、人体実験のため若い娘の命を次々に奪う兄。女性歌手が「亡くなった母が教えてくれた」と言う、歌(それが『死神の子守唄』というタイトル)の歌詞通りの死に方で娘たちは殺されて行くのですが、この兄さんもまた、妹のヒット曲が怪しまれるような殺し方わざわざすんなよって話ではあります。

でも横溝正史さんの映画にもなった『悪魔の手毬唄』や、A・クリスティ『そして誰もいなくなった』、ヴァン‐ダイン『僧正殺人事件』など、唄や詩のフレーズ通りに人が殺される…というモチーフには、作為的であざといけれど独特な怖さがありますね。連続殺人だけで十分怖いんだけど、そこに“言霊”が宿り導くという怖さが上乗せされる

さおりちゃん(小橋玲子さん)が広げた芸能雑誌の、この女性歌手のプロフィールの生年月日には“S20.10月”の数字が見えました。劇中、兄(草野大悟さん)が「妹は(病気のために)結婚もできない、恋人も持てない」と嘆く場面が一度ならず出てきますが、胎内被曝という、自分には何の落ち度もないいわれなき十字架を背負って生まれてきた人たちが、恋愛や結婚の適齢期を迎える年代にさしかかっていたのです。

再放送で久しぶりに観て、改めて本放送時の子供心の印象と大幅に異なっていて驚いたのは、牧(岸田森さん)による犯人(=兄)説得が不調に終わって、メットに盾の機動隊が大挙出動、闇夜の林を逃げ回り暴れ回って抵抗を重ねる犯人の、身柄確保に至る追跡劇の長ーくねちっこい描写。

そうでなくても全体的に画面の暗いシリーズなので、フラッシュで照明が当たる瞬間以外はほとんどどう逃げてどう追っているのかわからなかったりします。古いフィルム撮影のザラついた質感とも相俟って、どこか当時の左翼学生運動のアジト夜襲突入を生中継した映像のようにさえ見える。

妹の命を救いたい、いや妹は救われねばならない、妹が死ななければならない理由は無いのだ。しかし医学も、国の政策も頼りにはならない。救えるのは兄である自分だけ…という犯人の針を刺すような孤立無援感、不条理感が、蟻地獄にも似た闇夜の逃走劇から伝わってきます。

抵抗空しく捕縛された兄の叫びを闇の彼方に聞いて、妹は兄が試作し、人体実験の凶器となった放射線銃を掴んで逃走「死ぬのは嫌」と言い残して自分に銃を放ちます。

どのみち間近な死を免れない人が、みずから命をいままさに絶とうとする間際に発した言葉だけに、この「死ぬのは嫌」は重い。彼女にとっては自分の延命の可能性より、そのために兄が罪無き他人の命を奪っていたことが耐えられなかった「最愛の人の命を救うためならどんな犠牲も」という思考は愛あればこそですが、「人の犠牲の上に立ってまで命長らえたくない」と思うのも愛を越えた個人の尊厳でしょう。犠牲の形が連続殺人になるなら、妹にとっても最愛の人である兄の死=法による極刑を意味するのです。

兄と妹の命に対する思いは、互いを思う気持ちが強いほど乖離していく一方だった。このエピソードの一番の救いのなさはここにあると思います。兄の殺人をも辞さぬ必死の研究は、結果としては妹を絶望させ、さなきだに短い命をさらに早く自殺に追い込んだだけで終わったのです。

かと言って、妹が兄連行を見送りながら「胎内被曝しても生まれてこれた分私は幸せ。残り少ない余命を、亡くなった人たちの鎮魂、兄が殺めた人たちへの償いのため歌に捧げたい」と決意する…みたいなクソ前向きな結末も、この作品にふさわしくないですよね。

オリジナル『怪奇』は、このどうしようもない救いのなさを堪能してこそのシリーズですし。

4夜にわたって録画した他のエピは、いずれまとめて観て堪能しましょう。

ただ、今回の再放送ラインナップ、『吸血地獄』と『光る通り魔』という、当時怖かったけれど好きだったエピが入っていないのが残念です。

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