イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

藁藁の男

2009-11-17 19:13:08 | 昼ドラマ

自宅から路線バス3区間半ほどのところに、かつてS友グループだった総合スーパーがあるのですが、S友が手をひいて経営者交替してからというもの、品揃えがまったくわけわかんなくなってしまいました。SUNTORYの冬季限定“琥珀の贅沢”、先週11日にはリリースされているはずなのですが、目を皿のようにして探してもどこにも無い。

自宅近辺のコンビニに並ばないのはなんとなくわかるんです。330mlじゃケースの容積的に半端でしょうがないでしょうよ。中小店では冷蔵スペースも限られていますからね。350ml缶比で、直径一緒で高さを削ったのか、はたまた高さはまんまで“細く”したのか、現物確認できないから知るよしもないのですが。たぶん前者でしょうな。

そういう流通上のメンドくささも含めての“レア感”“スペシャル感”演出なのか、量目は20mlほどケチったけどAlc.6%で長期熟成でアロマホップでロースト麦芽で(←秋にもどこかで聞いたな)、他社の350ml製品より満足できますよという自信の表れなのか。ネットでさらっと評判見てみると、薄めで軽めで水っぽめのイメージが強いSUNTORYの新ジャンルにしてはしっかりした味で香りも立っている、季節限定でなく定番にしても…と概ね好評のようですが、とにかくもう少し、売ってるお店を増やしてくんないと手も足も出ません。

世間やネットの評判って、こと泡モノに関しては自分の“実飲”所感と、おそろしく一致しないものです。一缶飲んで白黒つけてみないことにはネットでカートン買いケース買いもできないですしね。

さて、好評放送中Xmasの奇蹟』の後、年明け15日(火)スタートの同枠新作も発表になりました。

『インディゴの夜』、加藤実秋さんの創元推理短編賞も受賞した人気シリーズが原作で、花形キャリアウーマンの夢破れたアラフォーヒロインがひょんな経緯でいっぷう変わったホストクラブの雇われ店長となり、それぞれに個性的な若いホストたちと衝突しながらも、次々舞い込む難事件・トラブルを解決して行くという、やや漫画チックながらなかなか魅力的な舞台設定ですよ。

15話ずつ完結というフォーマットもスピーディーそう。あくまで脚本がきっちりいい仕事をしきれればという条件つきですが、この枠の3ヶ月クール作で常につきまとってきた“中だるみ”“堂々めぐり”のリスクも低減できそうです。

ヒロイン・晶役はこの枠90年代の傑作『風のロンド』で実績ある(ついでにウエラのCMもオンエア中の)森口瑤子さん起用と安全策チックですが、ホストクラブものとあって共演にはイケメン俳優くんを惜しげなく投入しました。ドレイク加藤和樹さん、ギャレン天野浩成さん、アバレキラー田中幸太朗さんにゴーオンゴールド兄貴徳山秀典さんに、夏みかん森カンナさんも紅一点。日曜朝のスーパーヒーロータイムを一週間の締めくくりにもスタートにもしている大きなお友達にとっては、なんだか“豪華”を通り越して“陰謀”とすら言いたい陣容です。

男子校やその部活、ある種の国家や軍隊組織、今作のような水商売など、妙齢男ばっかりの舞台を設定したドラマを指して揶揄的に“イケメンわらわら”なんてよく言われていますが、月河にとってのイケメンわらわらドラマは特撮の02『龍騎』から0355504『剣(ブレイド)』までですでに駄目押しが終わって久しい。後にも先にも、出てくるヤツ出てくるヤツ、正義も敵も怪人も全員キュンキュン来させ、バトル勝ち負けへの興味に優るとも劣らぬキュンキュンテンションを最終話まで維持し続けた(しかもバトル部分が、キュンキュン来ることによっていささかも水をさされない!)連続ドラマはあの3年間の3作以上には出ないでしょう。

ゴールデンタイムのOLさん向け娯楽ドラマにおいても、そろそろ底が割れたその“イケメンわらわら”を、2010年の昼帯でやるというのもいまさらな気がしますが、それにしても今年の春、年4作各3ヶ月クールの慣例を取っぱらって、年6作体制を発表してからのこの東海テレビ制作枠は、“芸能界バックステージ(『エゴイスト』)”“純愛(『夏の秘密』)”“中島丈博脚本(『非婚同盟』)”に、“母もの(『嵐がくれたもの』)”“韓流(『Xmasの奇蹟』)”ときて、さらに年明け“イケメン”と、主要客層の大人女性にハズレのない古典的なタマを“なりふり構わず置きにきて”いる感。これはこれで「攻めてる」と言っていいのでしょうかね。

ついでのように引き合いに出して失礼の段はひらにご容赦願いますが、先日96歳の天寿を全うされた森繁久彌さんの追悼放送で、過去の出演作、出演番組、出演シーンがいくつも再放送されました。もちろんそのすべてをチェックしたわけではないけれど、確かに80歳を超えても才気あふれ、風刺諧謔の毒気の出し入れも抜群、トークでも打てば響く受け答えで、“枯れ過ぎない”のが魅力の素晴らしい俳優さんであり、顔出し芝居のみならずラジオドラマやアニメの声の演技、歌も作詞作曲までこなす“芸の人”だったことは認められるにしても、正直平成21年のいま観返すと、芸も存在感も若干のトゥーマッチ感が否めない。いくらコミカルに、軽快に演じていても、軽快なりに巧すぎ、濃すぎ、達者過ぎるのです。

TV放送も半世紀を越え、良いドラマ、おもしろいドラマ、惹き込まれるドラマを期待する観客の気持ちに昭和も平成もないと思いますが、“ものすごく芸能の能力に秀でた人の、持てる能力を出し切った、圧倒的な入魂の演技”を連日連夜、毎作毎作観たいかと訊かれれば、ちょっとなぁ…と躊躇せざるを得ない。

もちろんお茶の間で寝そべったりお菓子やお酒片手に観られて、そのまま途中で寝ちゃったりしてもいいTVと、前売り券買っておめかしして出かけないと観られないお芝居や劇場映画とでは、望むコンテンツもテイストも違ってくるでしょうが、どういうドラマが“おもしろい、惹き込まれるドラマ”なのか。

特撮や雑誌モデル出身の若い子たちが流行りの衣裳ヘアメイクで決めて、学芸会的な台詞の応酬する“イケメンわらわら”も、「稚拙だけど、ベタだけど、目の保養になるでしょホラ」な“置きに行く”姿勢も、あながち否定され軽んじられるべきではないのかもしれない。大正生まれの昭和の名優が逝って、失ったもの、求められるもの、いろいろ考えさせられたこの一週間ではあったのです。

ところで、イケメンイケメン言ってるのもなんだからってわけではありませんが『インディゴの夜』、舞台のホストクラブ“インディゴ”のオーナー役で、『相棒』の鑑識米沢さんでおなじみ六角精児さんもレギュラーインです。リンク先のフジテレビのニュースページトップの写真で、前列で森口さん加藤和樹さんと並んで、ひとり幅寄せ…じゃなくて、その…貫禄出しているから、原作者か監督か、プロデューサーさんかと思いました。これまたひらにご容赦を。あちらもこちらも多シーン出ずっぱりというわけではないから実現したのでしょうけど、Season 8との兼ね合いはオッケーだったのかしら。

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いっちょカモろうぜ

2009-11-15 16:54:08 | 昼ドラマ

Xmasの奇蹟』で不気味カワイイ存在感を発揮している火野正平さん、演じるアポロン・エンタテインメント柏木社長はバーボン党のようですな。昼ドラ恒例“なぜか全員集まる行きつけのお店”ピアノバー・ノクターンで、ミツコママ(白石まるみさん)が出してきた腰の低いボトルは、赤い栓が印象的でメーカーズ・マークかな?と思いましたがラベルは見えませんでした。前週の何話だったか、ミツコママの死んだピアニストの恋人のことを話していたときはラベル、映っていたかな。録画再チェックしてみないと。

死んだ浩志(岡田浩暉さん)は対照的にスコッチ派で、それも相当辛口のシングルモルトを愛飲。10話のラストで直(高橋かおりさん)が遺影に供えてあげていましたが、細高めのボトルで、いちばんメジャーなのはグレンフィディック辺りかもしれませんが、こちらもラベルは確認できませんでした。お酒がやっと解禁になった年齢の健(窪田正孝さん)の身体に魂が入っちゃってからは、飲むといきなり噎せてましたね。経験経験。

直はお供え酒にお相伴するときや軽く飲むときはビールですが、今日は飲むぞーというときには赤ワイン、つまみはチーズがお好みのよう。XX(ダブルエックス)のスタッフ横井くん(少路勇介さん)はリーマンらしく「とりあえずビール」派、実花(蒲生麻由さん)はおシャレに「キールにおつまみ」。彼女はちゃっかり者かつ、かなりの計算ちゃんなので、これはと思う異性と同席だと「ワタシ、アルコールはン…」なんて恥じらって見せたりしそうですな。悪女役もいけるはずの蒲生さんの、ウラオモテ演技を引き続き期待。

バーボンについては、以前ここでも結構書きました。ビールや発泡酒新ジャンル“泡モノ”に関してはいまも新製品新ラベル見かけるたびに食いついてますが、“お酒界”の中でまだシングルモルトのスコッチは足を踏み入れてない分野なんです。何か敷居が高いんですね。

 スコッチはスコッチでもブレンデッドのほうは一時、結構試したんですよ。飲んだ記憶のあるのは、J&B、バランタイン、カティサーク、フェイマス・グラウス、あと、妙なナンバリングの字ヅラがおもしろくて、VAT69なんてのも飲みましたっけ。

 バーボンのほうに先に嵌まったので、スコッチ独特のビー玉みたいなグリーンボトルが珍しく見え、それ系を見つけると手を出していたような。シングルモルトに比べるとブレンデッドは個性がやわらかですが、“飲む『嵐が丘』”とでも言いましょうか、ヒースの枯れた丘に小寒い風が吹きわたるような、いい意味で荒涼たる、孤高な味わいこそスコッチの醍醐味ではないでしょうか。ホッとくつろぐために飲むというより、荒野を彷徨うヒースクリフの魂のように、心を自由にするための酒ですね。

 カドの取れたブレンデッドでもこういう佇まいですから、“人に頭を下げるのが得意じゃない”浩志さんの愛したシングルモルトはもっと孤高でしょう。何としてもラベルが知りたいけど、フレームに映ったら映ったで『相棒』にときどき出てくる“(キリンじゃなくて)ラクダビール”みたいにお茶濁してありそうだな。

一方バーボンのほうは、やはり新大陸的と言いましょうか、辛口の銘柄でもどこか太陽の匂いがする。味が陽性で、楽天的なんですよね。「国は広いし水も土も豊富だし、掘れば金鉱も石油も出るしなんとかなるさ」「サブプライムにリーマンショックで暴落してもノーベル平和賞もらったし何とでもなるさガッハッハ」みたいな。

スコッチが飲む嵐が丘なら、こっちは何だろう。飲む『風と共に去りぬ』長いな。しかもアレは陽性で楽天的どころか、自分大好きの困った女の話だったし。

飲む『大地』?舞台がいきなりアジアだし。

飲む『トム・ソーヤーの冒険』?主人公が未成年だってば。

飲む『あしながおじさん』?思いっきり女の子だってば。

飲む『グレート・ギャツビー』?オールド・フィッツジェラルドというラベルも確かにありますが、どんどん楽天的でなくなっていくな。ギャツビーと言えば「すっきりしちゃって~」という感じでもある。

前の記事でも書いたけれど、月河にとってバーボンのアメリカは文学より映画なんですね。“飲む『スティング』”ってことで手を打ちましょうか。

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5番サードなかわた

2009-11-14 16:47:24 | ニュース

妙にお行儀よくスカスカと、“台本通り”チックだった鳩山&オバマ共同会見。元祖Change!のヒーローさんも、アフガンは片付かないわ国内経済は沈んだまんまだわ、乱射事件は起きるわと内憂外患山積で支持率右肩下がりの日々らしいですが、来日の姿かたちをTV越しにですが一見しただけで、赤裸々なオーラの減衰に驚きます。

思うに、こないだの(核なき世界へ)宣言しただけで受賞しちゃった”ノーベル平和賞が逆に災いしましたね。あれで妙な達成感が生じてしまい、見守りウォッチする側も、「この後、何やっても“言うは易く行なうは難し”を印象づけるだけ」とタカをくくり出してしまった。

「何をやってくれるか目が離せない」佇まいじゃなくなってきたのです。実証済みのガバナビリティではなく“可能性を先物買い”の当選だっただけに、このちんまりした達成感は今後ずっとこの人の足枷になりそう。

ミッシェル夫人が同行して2ショットでのお着きだったらちょっとは違った印象になったのかな。彼女は体格がいいし、顔面濃いし、物腰もキパキパしてアグレッシヴな迫力がありますからね。

日本に限っては、一般人ウォッチャーは“妻が目立つ”のを嫌うから逆効果か。

さてと、ウチにはウチの内憂が。先々週末の激寒で、パニクって冬物の衣裳や靴を引っ張り出し、そこへ嫌がらせのように小春日和も戻ってきて、部屋の中がいまだ引っ越し直後状態です。

改めて思ふ。中わた入りジャケ、コート多過ぎ。

もちろん寒冷地暮らしですから、完全休眠はなく毎冬どのアイテムもそれなりに稼働してますが、箪笥やクローゼットのスペースを取るにもほどがある。

7年ほど前、格安お値段に釣られて買った初めてのダウンコートが、格安なりの品質を露呈、ひと冬限りで“羽毛ボコリ生産機”化したのにすっかり懲り、上質ダウンの半分以下のお値段でお手入れ簡単な合繊中わたモノをもっぱら愛用してきました。“サーモライト”とか“サンバーナー”という商品名で製品化されている中わたは本当に暖かく軽く、北国の冬には重宝そのものです。

しかし限度というものはある。こういう、機能本位のアイテムって、“流行遅れになった”という理由で見切りをつけるのが難しいので、ますます箪笥への足し算になって行く。

…来季の入れ替え時には、圧縮収納袋買おうかな。…ってまた買い物、足し算かぁ。

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錯士、錯に溺れる

2009-11-12 18:12:10 | 夜ドラマ

「動機までも、錯覚だったようですねえ」

…右京さん(水谷豊さん)のラストのこの台詞にすべてが収斂して行った『相棒 Season 84話“錯覚の殺人”(1111日放送)。

ベクトルがぜんぶ一方向に向かって、この一点を頂点かつ終着点とするように組み立てられたシナリオなので、若干作為くささが鼻につくところもあったし、“目の錯覚”を利用した手口やトリック(制服集団にまぎれる、ある種の照明下で違う色に見える服)も小粒で、さしたる新鮮味はありませんでしたが、“恋愛心情そのものがすべからく、大なり小なり錯覚”という皮肉がよく効いていた。

元ゼミの教え子でTV局総務部若手社員の絵美(高松あいさん)と、知覚心理学者好田(近藤芳正さん)は男女の関係になっていましたが、“2人でいると急に冷たく、哀れむような目つきで見る”“同じ年頃の若い男たちと話すとき実に楽しそう”に見える絵美を、好田は「自分が年の離れた、見てくれの冴えない中年男だからウザがって離れようとしているのだ」と思い込み、空室のスタジオに誘い込んで転落事故に見せかけて殺してしまいましたが、絵美の同僚社員で、好田の前に彼女と交際していた池谷(松尾政寿さん)の証言では、「彼女は“先生”と呼ぶ、父親ぐらい年上らしいその恋人に本気で、ボクは振られてしまった」「彼女は結婚も考えていたが、年上なためにその彼氏のほうが消極的で、彼女はそのことで悩んでいたようだ」…本気なあまりに、端々にこぼれる悩ましい目つきや、“貴方だけ特別なのよ”を訴える表情・仕草も、もとから年齢や容姿をコンプレックスに思っていた好田は“裏切った”と錯覚したのです。

無人のスタジオの手すりから、絵美に身を乗り出させ突き落としのチャンスを作るために、好田はダミーの、空(から)の婚約指輪ケースを見せ「アレ?さっきはあったのに、この下に落としたかな?」と小芝居を打ちます。ケースを見ただけで顔をほころばせた絵美の表情も“高額な宝石のプレゼントだと思って食いついてきた”と好田は苦々しく思ったのでしょうが、本当は、絵美は純粋に好田のプロポーズと信じて喜んだはず。錯覚で、殺さなくてもいい人を殺し、犯さなくてもいい殺人を犯した犯人が、錯覚研究の大家だったという大いなる皮肉。

前季までNHK『つばさ』に集中していたか『相棒』にはご無沙汰だった脚本戸田山雅司さん、動機や手口はそれぞれ違いますがSeason 5『女王の宮殿』やSeason 6『蟷螂たちの幸福』、戸田山さんの相棒デビュー作となったSeason 4『緑の殺意』とどこか世界観が通底しています。“自分はこの分野で人並み優れている”“優れているのだから他人に譲歩できない、遅れをとるわけにはいかない”というプライド、こだわりを持った犯人が、そのプライドゆえに犯意を抱き、ごだわりゆえに露顕し自滅するというお話。今季は“脳味噌筋肉”をある程度自覚していた亀山くん(寺脇康文さん)ではなく、他人から“頭がいい”アピールされると我知らず反応してしまう神戸くん(及川光博さん)が参入したので、ちょっと独特な味わいになりました。

捜一トリオの芹沢くん(山中崇史さん)も、伊丹先輩(川原和久さん)から余計な任務背負わされたおかげで、結果大活躍(大使われ?)だったではありませんか。地下駐車場のライトアップレバーオンオフの後、照明錯視のトリックが載った好田の著書を、間髪入れず神戸に渡した忠実飼い犬っぷりもキュート。

『相棒』登場の大学教授と言えばSeason 4『殺人講義』でも石橋蓮司さんが教え子と懇ろになって殺人を犯していましたが、今回はTVのお勉強バラエティで人気の、“知覚の脳による情報処理”が専門のタレント学者ということで、近藤芳正さんには似ていないけれどモジャ頭のアノ脳科学者を連想した向きも多かったのではないでしょうか。好田先生、女性関係はともかく、納税は大丈夫だったかな。

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この先浩志中

2009-11-11 16:47:03 | 昼ドラマ

Xmasの奇蹟』は、第5話、浩志(岡田浩暉さん)の魂を宿し蘇生した健(窪田正孝さん)が本格的に参入してから、一気に右肩上がりで精彩が出てきました。

意識も記憶も、直(高橋かおりさん)を愛し、彼女に背中を押されて、覆面作曲家兼ピアニスト・Xeno(ゼノ)として世に出ようとしていた浩志のままなのだけれど、身体は20歳のサッカー好き大学生・健。直に「自分は浩志だ」と告げたいのに、告げかけると心拍も呼吸も停止してしまう。浩志の魂が健に入っていることを他人に知られると、今度こそこの世に身体も魂も存在できなくなるらしいのです。この辺り、ともすればナレーションで説明したくなるところですが、窪田さんは表情と、途切れ途切れに呻く様に漏らす台詞だけで、状況を表現し切りました。

社運を賭けて売り出してきたゼノの失踪で、直とともに浩志が立ち上げた新音楽事務所も風前の灯。直の苦境を知って思いあまった浩志=健は、「俺がゼノだ」と名乗り出ます。

 浩志=健にとって、嘘ではなく真実で、かつ、命を失わずにすむぎりぎりの選択が「ゼノだ」の告白。35歳の分別と、愛する女性への思いと音楽への執念、追い詰められての思考の回転が、高校生にも見える童顔の健に宿って懸命の選択肢探しをする内面の葛藤。カメラが揺れたり回ったり、ぐよんごよんエコーがかかったりなど、絵的にも音声面でも勿体ぶった演出はほとんど無いのにこの唯一無二の、命綱のような告白は重く映り、響きました。

命を危ぶまれた昏睡から生還の健を喜びで迎える母・江利子(中村久美さん)と幼馴染みの恋人・仁美(水崎綾女さん)、サッカー友達の光(千代将太さん)たちですが、浩志の魂にとっては初対面の見知らぬ人々。それでも自分と同じ、母の細腕ひとつで育てられた母子家庭と知って、どうにか健として振る舞い周囲を安心させようと浩志(の魂)は努力します。離婚後江利子がエステサロンで働いて健を大学に進学させ、好きなサッカーも思う存分やらせてくれていた様子で、こぢんまりしたマンションですが小奇麗で、健の部屋にもひと通りの物が揃いまあまあ裕福そうです。しかも仁美は健が昏睡中も毎日病院を見舞ってくれた、献身的な恋人。光はクチは悪いけれども、高校時代からサッカーをともに競い同じ大学に進学して、健と仁美の幸せを願う熱血な親友です。

こんなに恵まれた環境でも「この身体で生き返ったのは、ラッキーなんかじゃない、地獄だ…」と呟いてしまう浩志の苦悩。浩志にとって何より大切なもの、大切な人との距離は、見えないガラスで隔てられているかのようにどうしても詰められない、触れられない、抱きしめられない。それは健として享受する、母や恋人の愛、20歳の若く健康な身体をもってしても埋め合わせることができないのです。

とりわけ第7話で、直のマンションの部屋から出てきた浩志の母・多恵(泉晶子さん)と健が偶然出くわした場面は素晴らしかった。母は浩志の納骨を済ませた後の喪服姿です。自分の魂はこうして生きているよと告げたい、でも告げられない。健の姿の浩志は「外は寒いですから、気をつけて」とささやくのが精一杯。母はダウンジャケ姿の見知らぬ若者からの優しい言葉を訝しがりつつ「ご親切に」と去って行きます。

音楽の仕事と、恋愛&結婚に心を領されていた35歳の男といえども、唯一の肉親だった母への思いは別格のはず。ゼノ問題や直との関係だけでなく、母に向けるこの場面を入れたおかげで、“健の身体に入ってしまった浩志”の悲劇が格段の立体感を持ちました。

他方、浩志の健としての蘇生など知るよしもない博人(大内厚雄さん)は、自分の脇見運転で浩志を死なせてしまった罪の意識と、ずっと片思いしていた直を、浩志亡き後こそは自分に振り向かせたい、頼って大事な人と思ってもらいたい下心、そして音大時代の事故以降、地味なスタジオミュージシャンとして埋もれさせていたピアノで陽のあたる場所に出、注目されてみたい野心も微量綯い交ぜになって、事故現場から拾って隠していたゼノ名義の新曲の楽譜を“証拠品”に、「ゼノは僕だ」と直に宣言。直は一も二もなく、面識のない健より、浩志の親友でピアノの能力があることも既知の、博人の言葉を信じてしまいます。

博人の言動には打算が含まれているけれど、狡猾利己的な打算ではなく、芯には純粋な、切実なものもある。こうなってくると、頑迷なくらい「浩志の遺志を汲みたい、ゼノを売り出し多くの人に聴かせる夢をかなえてあげたい」と固執する直のほうが愚かで近視眼でエゴく見えてきてしまうのですが、手書き譜面の筆跡、これから博人がゼノを装って披露するであろう実演奏などから、徐々に不審を持ち気づいていくのかもしれません。気づいていってもらわないと健の空回りだけで物語になりませんからね。

こういうスーパーナチュラルな、SF的な設定って、なんでもアリで都合がいいせいか、長丁場多話数の連続ドラマではとかく後半で放置されたり、無視されたりで、1年クールの特撮ヒーローものなどでもよく「アレ?あの必殺技はこの状況では出せないんじゃなかったっけ?」「あのキャラのこの技はこのキャラに圧勝だったはずなんだけど、同じ技で今度は負けるの?」なんてことが毎話あり、毎話のように前半で敷かれた設定が引っくり返され“無かったこと”にされて行く、所謂“グダグダ化”がつきものなのがいまから非常に懸念されるのですが、とりあえず見た目も設定も、演技ぶりも若々しくみずみずしい窪田さんの参入で、古くさく湿気っぽく「韓国ドラマのいまさら後追い」としか思えなかった物語世界が俄然活気を持ってきました。

ここへ来て、OPタイトルに流れるパク・ヨンハさんの主題歌『最愛のひと』がちょっと浮いてきました。

もっと言わせてもらえば、若干“キムチ味濃すぎ”。「これが聴きたくて、日頃昼帯ドラマなんか観ないのにチャンネルを合わせている」というファンも多いのでしょうが、このOPでドスンと“韓国ドラマ臭さ”の沼に沈められてしまい、本編の、甘く苦いラブファンタジーに“きれいに浸り、心地よく騙される”モードまで這い上がり戻るのに、どうも時間がかかっていけません。

ピアノ曲、ピアニストをモチーフにした物語でもあり、いっそ歌詞なしピアノのソロインスト曲にしたほうがよかったのではないでしょうか。この枠の08年『花衣夢衣』『愛讐のロメラ』では、重要度さほどではないシーンでもかなり大胆に載せられていたコーニッシュさんの音楽が、ヨンハさんに遠慮してか今回えらくおとなしい使われ方なのももったいないし、物足りない気がします。

そのコーニッシュさんのサウンドトラックCDは来週、18日(水)リリース。劇中、ゼノのオリジナル曲として使われた『青の月』のアレンジヴァージョンを含む全41曲、演奏時間6527秒となかなか気合いが入っていますが、いま少しドラマとのシンクロ具合を見守ってからでないと手が出ませんね。

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