大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『緊急プレッシャー』

2016-10-10 05:57:20 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『緊急プレッシャー』



 寸止めしたら、その手を掴まれて、すごい目で睨まれた……。

 あの時の緊急プレッシャーを感じてしまった。

「三林くん、遅刻!」
 カワイイ顔して、新任のミカちゃんが、穏やかに言った。
「マジかよ……?」
 頭を掻きながら、甘えヤンキー風に言った。
「遅刻は、遅刻!」
 カワイイまんまで、ミカちゃんは厳しく言った。瞬間むかついた。

 で、右手で顔面目がけ、一センチの寸止めを食らわした。

 普通の女の子なら、悲鳴をあげるか、逃げ出すか、顔を背け手でガードする。あるいは、その全部をやって泣き出すか。最低でも目はつぶる。国語の藤バーでも目はつぶった。

 でも、このミカちゃんは、しっかり目を開けて、カワイク言った。
「寸止めは、立派な対教師暴力よ……」
 で、気がついたら、寸止めの手を逆手にねじり上げられ、「痛いよ、ミカちゃん!」
 で、そのまま生活指導室に連れて行かれた。スポーツ新聞読んで椅子に足載っけてた梅沢のオッサンが、気を付けした。
「お嬢さん、三林が何かしましたか……」
「顔面寸止め。腰が入ってなかったから、最初から分かってたけど、一応懲戒規定にかかりますから、梅沢先生」
 そう言って、突き放されたところを、梅沢のとっつぁんが腰払いで、スプリングの突き出たソファーにフンワリ、グサッと投げ倒された。
「ミカ先生は、オレの師匠のお嬢さんで、合気道の四段だ、失礼こきやがって!」
 生指部長の梅沢に、新聞紙を丸めたので、ポコポコどつかれた。
「い、痛いっす。梅沢先生!」
「大丈夫よ、体に傷が出来る前に、新聞がボロボロになるから」
「じゃ、お嬢さん。ボロボロになるまでやらせてもらいます!」
「ひえー!」

 十五年前の思い出を、瞬間で思い出した。

「C国潜水艦、魚雷発射管注水つづく!」
 先任水測員の山田曹長が、はっきりした声で言った。
「これで、全門の注水か……」
 艦長が、ゆっくり穏やかな目のままオレを見た。
「水雷長、水雷要員配置」
「水雷要員、配置つけ」
 そう命ずると、二秒で返事が返ってきた。
「水雷要員、配置よし」
「隔壁閉鎖」
「隔壁閉鎖……よし」

 緊急プレッシャー。海自始まって以来の潜水艦戦……か。

「C国潜水艦、発射管開く」
 山田曹長が、静かに、しかし脂汗を流しながら言った。
「急速潜行、急げ」
「急速潜行、急げ」
 操舵手の、徳田一曹が復唱と同時に、艦を急速潜行させた。体が艦首方向に傾き、反射的に直近の機器にしがみつく。この反射神経だけは、ミカちゃん先生に負けないだろう。
 艦は、一気に推進○○○メートルまで潜行した。乗組員全員の緊急プレッシャーを載せたまま……。

「なってあげてもいいよ。水雷長のお嫁さんに」
 いずもの主計課の、水口みなみ二曹が答えた。
「い、いま、なんつった?」
「報告の聞き返しは、幹部の恥!」

 そう、オレは、観艦式の展示訓練のために、いずもに乗艦したときから、水口みなみ一曹に一目惚れした。

 で、昨日のC国との、一件のあと、呉に入港し、艦内の整理をした。そしてデッキに出て、いずもが入港しているのに気づいた。なんたって海自最大の護衛艦だ、ドンガメのおれ達の艦より、よほど目立つ。
 運良く、みなみも半舷上陸していたので、呼び出した。

 いずもはベッピンが多いが、ミナミは私服になると、AKBで通用しそうなほどカワイイ。

 魚雷全門発射の勢いでプロポーズした。予想に反して、みなみは沈黙してしまった。もう緊急プレッシャーである。
 で、そのプレッシャーにまつわる思い出の古いのと新しいのが頭をよぎった。気がつくと、波止場を五百メートルほど歩いていた。

「答は決まっていたんだけどね。いずもの甲板一周駆け足しながら、一日の課業を確認するのがクセになってるの。だから、同じだけ歩いてから、答えようと思って」
「な、なんだ、そうか」
「暑い?」
「ドンガメの中ぐらいにな」

「ねえ、海軍カレー食べようよ」
「え、昨日食ったとこだぞ」
「分かんないかな。今日の婚約を忘れないために食べるんだよ」

 オレの緊急プレッシャーは、ようやく溶け始めた……。

 平成26年9月13日(土) 三等海佐 三林悟朗

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・58『真夏の方程式』

2016-10-10 05:32:57 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・58
『真夏の方程式』
       

この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです


名作です。やるじゃねぇですかい、フジテレビ系邦画製作。原作に細かく気を使いながら、原作に縛られていない。お見事な映画です。

 原作も、ガリレオシリーズの一本としては異質なストーリー……『容疑者X』のテイストを今一歩、加賀恭一郎の人情ストーリーに近づけてあります。
 映画は、それをさらに鮮明に浮かび上がらせています。お約束の数式や決めゼリフは登場しませんが、湯川の頭の中で「はぁん、ここで浮かんだな」とテレビシリーズファンなら分かります。
 原作を読んでいる方には「あれっ?あのシーンが無い!」と思われる、結構大事な伏線がすっ飛ばしてありますが、それは後半の一シーンで解決します。
 唯一、「塚原元刑事」の行動の理由が分かりにくいのですが、よほど注意深く見ていると理解できる仕掛け、但し すべて見終わってから思い直してみれば……という形ではありますが。 小説では読者に「読み取ってくれ」という構造になっている部分が、映画では ハッキリ表現され、逆に原作にはきっちり書かれている部分が隠されていて……全て、ラストの駅舎のシーンと海辺のシーンの感動を高めるためで、極めて良く計算されています。最後に下す 湯川の選択は、これまでのガリレオには無かったものです。どこまでも真理を追求する彼にしてみれば苦渋の選択、『容疑者X』でもそうなりかけたが、真犯人が名乗り出る事で全てが明るみに出た。今回は自らの選択で……。
 本作は まぎれもなく東野圭吾の「真夏の方程式」であり、かつ、全く別な「真夏の方程式」でもあります。互いに補完しあっているのではなく、それぞれが独立してたっています。
 これほど見事な作品になっているとは想像していませんでした。東野圭吾ファン、福山ファンでなくとも納得出来る映画です。華丸!大オススメ!!

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