大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ぜっさん・02『フルネームを言うと』

2020-08-07 06:31:32 | 小説3

・02
『フルネームを言うと』     


 

 ちょっと残念だった。

 広島に来たからには、お好み焼きを食べなくちゃ!
 そう思い定めて、昨日に続き二回目のお好み焼き。
「慣れなんだろうけど、ああバラケてしもたらねえ……」
 瑠美奈は小割にしたお好み焼きをコテに載せてはボロボロとこぼしていた。わたしはハナから諦めて小皿に載せてお箸で食べている。

 大阪のお好み焼きはボウルの中でかき混ぜてから鉄板に広げるので、小割にして口に運んでもバラケルことがない。
 広島焼は、クレ-プみたいに生地を広げ、その上に具材を重ねていく。具材同士はくっ付いていないので、コテに載せた時にどうしてもバラケテしまう。
「運よく口まで運べても、バラケテたら頼んないしなあ」
「わたしは、具材にオボロ昆布使うところがねえ……ま、昨日と今日の二回食べただけで広島焼全部を批判するのもなんだけどね……」
 幕間交流でうっかり広島水瀬高校の芝居を批判してしまったので、少し慎重な物言いになってしまう。それに今齧っているアイスキャンディーは美味しいので、お好み焼きへの不満も和らいでいる。
「水瀬高校のミスター高校生どないすんの?」
 一足先にアイスキャンディーを食べ終わった瑠美奈が話題を変えてくる。

 フードセンターに足を向けたところで声を掛けられたのだ。

「さっきの発言、とても面白かったです。よかったら、もう少しお話しできませんか」
 とても爽やかな言い回しだったけど「発言」と言ったところに含むものを感じた、不規則発言とか問題発言とか、あんまりいい意味で使わないでしょ。
「あ、えと……今から昼食に行くので、戻ってきてからじゃダメですか?」
 そうは答えたけど、正直あのミスター高校生と話すのは気が重い。

 あの時停電にさえならなければ……。

 会場に戻ったら午後の部が始まる直前だった。

 急いでシートに戻ったのでミスター高校生には会わずに済んだ。

 で、そのまま午後の上演を観て夕方の交流会と審査発表になった。水瀬高校で失敗しているので、わたしは一切発言しないことに決めて、文字通り目をつぶっていた。審査発表の前に後ろの席の人が帰るのだろう、数人がゴソゴソする気配がした。

「あ、敷島さんじゃないですか!?」
 後ろからミスター高校生の声が降って来た。
「あ、ミスター……」
「水瀬高校二年の……牧野卓司です」
 そう言いながら、ミスターは「ヨイショ」っとシートを跨いで、わたしの隣に越してきた。
「あ、あの……」
「隣いいですよね?」
「はい、なんぼでも!」
 瑠美奈が、こんな(^0^)顔をしてミスターを招じ入れた。やっぱ広島は関西圏なんでノリカタは大阪と同じなんだろうかと思って深呼吸。

「そりゃあ残念!」

 審査発表が思いのほか延びてしまったので、宿の都合でミスターと話している時間が無くなってしまった。明日は8時半の新幹線に乗らなければならない。まだ知り合って半日、話したのは10分も無い。つまり気心が知れるところまではいっていない。こんな状況でメアドの交換などはしたくない。

「じゃ、手紙とか出していいですか?」

 ミスターは笑顔のまま意外な提案をしてきた。
「て、手紙ですか?」
「ハハ、いきなり住所とか聞いたりしませんよ。学校の演劇部宛てに出しますから」
 そう言いながらミスターはスマホをメモ機能にした。
「えと、東京の中央区ですよね……」
「あ、大阪の日本橋です」
「え?」
「あ、ぜっさん、日本橋(ニホンバシ)て発音するからや、うちらは日本橋(ニッポンバシ)や!」

 大笑いになって、フルネームを言うと、また驚かれた。

 わたしは敷島絶子。絶子と書いて(たえこ)と読む。でも一見してゼツコなので、通称ぜっさん。

 なにを隠そう、隣で大口開けて笑っている河内女の加藤瑠美奈がつけたあだ名なのです。
  


 主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かの世界この世界:33『ツ... | トップ | 魔法少女マヂカ・168『綾... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説3」カテゴリの最新記事