大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

クレルモンの風・1『知らないことばっか!』

2021-08-04 06:20:56 | 真夏ダイアリー

クレルモンの風・1
『知らないことばっか!』
     



 クレルモンと言っても、なにもクレルわけじゃない。フランスの中南部の街。それだけ。

 それだけの知識で、あたしはここに来た。正式にはクレルモンフェランということも、こないだ知ったばかり。
 大学で、交換留学生の募集があったので、あんまり良く読みもしないで申し込んだら、当たってしまった。

「須之内くん、これ一年は帰って来れないの知って応募した?」

 決まってから、学務課留学係りに行くと、担当のオジサンに開口一番に言われた。正直オッタマゲタが、元来の負けず嫌いで、こう言ってしまった。

「もちろん、承知の上です!」

「じゃ、これ必要書類。フランス語は訳しといたけど、英文は自分で読んで。手続きは今月中。九月の第一週には向こうに行って、すてきな留学生活送ってください」

 で、我ながらアホなんだけど、パスポートも持っていなかった。でもって、向こうの学科なんて、日本語に訳してもらってもチンプンカンプン。
 その結果、出発が十日プラス連休分遅れてしまった。なにかペナルティーがあるかと思ったが、ノープロブレム。ただし、勉強の遅れは自己責任で自分でやらなきゃならないらしい。

 そんなあたしを憐れんでか、寄宿舎のルームメイトには日本語が堪能なアグネスって、アメリカの女子学生をつけてくれることになった。

 アグネス……どんな子だろう?

 アグネス・チャン アグネス・ラム ちょっと昔のアイドル 

 アグネスタキオン 検索したら競走馬 でも『ウマ娘』で見てみると擬人化されてて可愛い!

 アグネス・チョウ 香港の民主化活動家 でも写真見るとロン毛の似合う可愛い女の子なのでびっくり!

 大学から連絡があって、スカイプで話せるとのことでパソコンを操作すると「ハロー、ディスイズ ユウコ・スノウチ スピーキング」と初めてみたんだけど、彼女は日本語で応えてくれてラッキー(^▽^)/

 どんな子だったかは、もうちょっと後でね。

 飛行機に乗ってから、日本のありがたさが、身にしみてよく分かる。エールフランスだったけど、日本人のCAさんもいて、苦労はなかった。パリの空港で乗り換えなんだけど、ちゃんと日本語の案内がある。まあ、知らない日本の街に行ったと思えば肩も凝らない……と思えたのは。クレルモンに着くまでだった。

 パリの空港までは日本人もウジャウジャいたけど、クレルモン行きのローカル便は、フランス人ばっか。

 たぶん、心細そうな顔(めったにしません)をしていたんだろう。
「エクスキューゼモア……」って、感じでアジア系のオバサンが、隣のカンペキフランスのオッサン押しのけて、あたしに声をかけてくれた。
「あなた、ひょっとして日本人?」
「はい、そーです(;゚Д゚)!」

 あたしは、地獄でホトケというような顔になった。

「ハハ、あなたって分かり易い性格ね」 
 オバサンは、本格的に横のオッサンと話をつけて、あたしの横に来てくれた。で、聞かれもしないのに、今までのいきさつを言うと、コロコロと笑って気を楽にしてくれ、あたしに、取りあえずどんな援助が必要か考えてくれた。
「じゃあ、空港の出口までエスコートしてあげる」
「みしゅらん土地で、助かりました( ノД`)シクシク…」
 あたしは、感謝の気持ちでいっぱいになり、半べそでお礼を言った。
「アハ、今の立派なオヤジギャグ!」
「え、なんで?」
「クレルモンは、ミシュランでもってる街だから」
「え、そーなんですか?」
 と言いながら、ミシュランが有名なタイヤメーカーであることを知るのは、もうちょっとあと。

「ま、とりあえずFBで、お友だちになっておこうか」
 そのオバサンは、空港で荷物を受け取ったあと、わたしに提案してくれた。
「あたし、須之内優子っていいます。送りますね……」
「はい、これでお友だち!」
「メグ マルタンさん……ですか?」
「そう、正式なメアドは、いずれってことにして……」
「はい、日本でも、簡単にメアド教えるなって言われてきました」
「うん、いいこころがけ。あ、あの子じゃない、お迎えは!?」

 ブロンドのポニーテールがキョロキョロしていた。

「はーい、アグネス……だよね?」
「うん、ユウコよね?」
「うわー、会いたかった!」
「うちもや!」
 スカイプなんかでは、顔も声も知っていたけど、現物は迫力が違う。ハグしたときの感触……とくに胸。
「てっきり、一人で来る思うてたから、わからへんかった!」
 と、大阪弁丸出しのアメリカネエチャンが言った。
「あなたの日本語って、完ぺきな大阪弁やね!」
 と、メグさんも大阪弁で返してきた。

 アグネスは、隣のバアチャンが大阪の人だったので、日本語が大阪弁でインストールされてしまって、標準語だと言葉が出にくいらしい。スカイプでは苦労して、標準語を喋っていたらしい。
 メグさんは、神戸あたりの出身であることが分かった。

 アグネスの運転で大学に向かった。荷物は車に残し、学校の事務所が開いているうちに手続きをしてしまおうということになっているのだ。

「ウワー、かわいい、不思議の国のアリスみたい!」

 入った玄関ホールは、まるでアリスそのもの、学生も4、50人ほどで、こぢんまりしている。螺旋階段がすてきだし、床のチェック柄もすてき。これなら、大きなオセロゲームができると思った。

 で、それは、意外に、意外な問題を解決するのに役に立つのであった……。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 誤訳怪訳日本の神話・53『... | トップ | ライトノベルベスト『小林イ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

真夏ダイアリー」カテゴリの最新記事