漆黒のブリュンヒルデQ
この時代のカタパルトは火薬を使う。
火薬の爆発で瞬発力を得て蹴飛ばすように観測機を射出する仕組みだ。宿命的にカタパルトは射出のたびに大きな衝撃を受け、後年空母に使われる蒸気カタパルトよりも故障が多く、各国海軍は故障を含めて軍事機密にしている。
シリンダーロッドの軸受けが疲労によってひずみが出ている。
軸受けそのものを交換すると時間がかかり過ぎるので、リペアの白魔法でひずみを直してやる。
蛮族との戦いにおいても剣や槍の歪みを魔法で直す。それと同じなので、ほとんど瞬間で直ってしまう。
熟練の整備班長がハンマーでロッドを叩くのに合わせたやったから、整備班長の職人芸で回復したことになった。
「カタパルト回復!」
ただちに報告があげられ、利根四号機は五分の遅れだけで、索敵任務につくことができた。
そして三十分後、利根四号機は――敵らしきもの一〇隻見ゆ。ミッドウェーよりの方位一〇度二四〇浬、針路一五〇度、速力二十ノット、〇三五八――を打電してきた。
直した甲斐があった。
これで日本艦隊はむざむざと空母四隻を撃沈されて敗北することは無くなる。ミッドウェーの攻略もつつがなく済んで、日米戦の結果は変わって来るだろう。ひょっとしたら、広島長崎への原爆投下も阻止できるかもしれない。
利根の艦橋でも、四号機の敵艦隊発見の殊勲に湧きかえっていた。
「四号機の報告で、わしの腰痛も治ったぞ!」
艦長が目をへの字にし、副長はガスマスクの収納を指示した。
「艦長、赤城から攻撃隊発進の信号旗があがりません」
「なんだと」
見張り員の報告に、艦橋の総員が赤城の艦橋に双眼鏡を向けた。
わたしも主神オーディンの軍を預かる漆黒の姫騎士、見敵必殺が部隊指揮の要諦であることを知っている。
旗艦赤城の動き、いや、動きを決定する判断の遅れは異常だ。
先ほど鉛筆を折ってしまった航海士が、海図を見ながら何度も計算尺をいじっている。
落ち着け。
先任の大尉が目で諭し、航海士は他の要員といっしょに赤城を注視することにした。
念のため海図を覗き込むと、何度もチェックの赤鉛筆が入ってはいるが、海図に記入された情報には間違いが無かった。多少あがり症なのだろうけど、航海士はきちんと任務をこなしている。
ひょっとして……?
わたしは、旗艦赤城の艦橋にテレポした……。
☆彡 主な登場人物
- 武笠ひるで(高校二年生) こっちの世界のブリュンヒルデ
- 福田芳子(高校一年生) ひるでの後輩 生徒会役員
- 福田るり子 福田芳子の妹
- 小栗結衣(高校二年生) ひるでの同輩 生徒会長
- 猫田ねね子 怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
- 門脇 啓介 引きこもりの幼なじみ
- おきながさん 気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
- スクネ老人 武内宿禰 気長足姫のじい
- 玉代(玉依姫) ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
- お祖父ちゃん
- お祖母ちゃん 武笠民子
- レイア(ニンフ) ブリュンヒルデの侍女
- 主神オーディン ブァルハラに住むブリュンヒルデの父