RE・友子パラドクス
もう一度T町にテレポする。
テレポの瞬間、小さく「ドッコイショ」と掛け声が出てしまう。
そして……発見した。
二人のミイラ化した遺体だった。肉屋の冷凍庫に入れられていたので、空気中の臭い粒子はごく微量で、しかも拡散していたので、発見に時間がかかった。
「ひどい……まだ十代の女の子よ」
「勘が鋭いというだけで殺されたんだな、居場所を感知させないためだけに。奴も焦っているんだろう。ここに隠すまでに迷っている。だから臭いの粒子が飛び散ったんだ」
「また、カッパドキア……」
「少し休もう、力を使いすぎてる」
「でも、ほとんど追い詰めてる気がする。時間を置くと、司教も対策を立ててくる」
「奴も、それほどの力は残っていないと思う。聖骸布が完全ならともかく、トモちゃんに尻尾を掴まれているんだからな」
友子は聖骸布の端を千切り取ったことを思い出す。まさに尻尾を掴んでいるのだ、敵も万全ではない。
「それに、ここにテレポする時『ドッコイショ』って言ってただろ」
「あ……(聞かれていた)」
「態勢を万全にするのも戦闘の内だ」
このままテレポしても、向こうじゃ半分の力も出せない。
水道局では「くそ、どこもかしこも一歩先をいかれてる!」とイラだっていた滝川だが、歴戦の勇士は修正も早い。
「車は使わないの?」
住人の居なくなった町のいたるところに車が残っている、拝借しても文句は言われない。
「少しでもクールダウン……トモちゃんの内部温度75度もあるぜ」
「え?」
確かに自分で確認すると75度、滝川のそれを計ってみると85度もあった。
「こういう回復の遅さが退役の一番の理由さ……」
モーテルに戻ると、布団を被った子どもたちのベッドの上では、カッパドキアを明示したまま地球儀が回っている。
二人は、それを視野の端に認めるだけでくずおれるように眠ってしまった。
「起きて! 二人が居ない!」
床で眠ってしまっていた滝川は、友子の声に跳び起きた。
ベッドの上では、相変わらず地球儀が回っていたが、布団の膨らみを残したままポチもハナも居なくなっていた。
「しまった、俺たちを追ってテレポしていたんだ!」
「服が残ったまま!?」
「未熟なテレポだから、体だけで行ってしまったんだ」
子供二人の衣類と、バッグに入るだけの食料を詰めると、再びカッパドキアにテレポする二人であった。
☆彡 主な登場人物
- 鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
- 鈴木 一郎 友子の弟で父親
- 鈴木 春奈 一郎の妻
- 鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
- 白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
- 大佛 聡 クラスの委員長
- 王 梨香 クラスメート
- 長峰 純子 クラスメート
- 麻子 クラスメート
- 妙子 クラスメート 演劇部
- 水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
- 滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士