鳴かぬなら 信長転生記
スナイパーだからだろうか、覚えると的確だ。
クルミ団子を食べて思いついたんだ。
クルミをいっぱい採って、皆虎の街で売ってみよう。
最初は辻売りでいい。売れたら、それを元手に……元手といっても金の事ばかりじゃない。
当分の活動に困らない程度には生徒会からもらっている。
わたしの言う元手は評判のことさ。
あいつの商売は固い、信用が置ける。そういう評判だ。
小さな評判でも立てておけば、そこから道が開ける。
むろん、わたしは扶桑(転生国)のスパイだから、そっちの道をつけるための評判が第一なんだけどね。
わたしは、美しいものを見たいんだ。できたら所有もしてみたい。
天下で一番許せないのは、値打ちも分からずに無駄にお宝を所有してるやつらだ。戦国大名で、そういう値打ちの分かる者はほんの一握りだった。
松永弾正とか秀吉とかは最低だった。
弾正は自分が滅ぶくらいならお宝も道連れ。平蜘蛛の茶釜に火薬をぶち込んで、己が身とともに爆砕させてしまった。この古田織部ほどの数寄人が頭を下げて頼みに行ったというのにだ!
秀吉は、なんでも金に換算しないと値打ちの分からん阿呆だった。値段の高いもの、金ぴかのものに目が無かった。青磁や古九谷を金の茶釜と並べて悦に入るアホ猿。
むろん他にも数寄者の戦国大名はいっぱいいるけど、この扶桑に転生しているやつらは、ちょっと評しにくい。
まあ、察してちょうだい。
あ、覚えると早いという話、リュドミラのことね。
ウクライナ出身のスナイパーで、生前309人のドイツ兵を一発で撃ち殺したって伝説の狙撃手。
こいつにくるみの見分け方を教えてやった。
オニグルミは大きさの割には実が小さくて、味もそれほどじゃない。狙うのはサワグルミ。
実はしっかりしてるし、味もそこそこ。超一級品というわけじゃないけど、辻売りの元手にはちょうどいい。
「全部が全部小振りというわけじゃないのに、よく分かるわねぇ」
「いちど特徴のあるものを見たら、あとはオーラで分かる」
「くるみにオーラがあるのか?」
「ああ、優れた標的には優れているだけのオーラがあるんだ」
「そうなのか?」
見分け方を教えたわたしでも、樹高の高さ、微妙に明るい葉の色ぐらいしか分からないし、それも目を凝らしていないとなかなか見分けられない。
「たとえ、風采が上がらなくても同じ軍服を着ていても部隊長クラスの将校やスナイパーは持っているものが違う」
そうか、同じ窯で焼いても名品は違うからな。
名品があれば、窯出しの火口を開けただけで、迫って来る迫力が違うものな。
「そうか、おかげで捗った。では、そろそろ皆虎に入るとするか」
「あ、ああ」
ちょっと上気した返事をすると、少し後ろについて歩き出す。
一見従者めいたポジションだけど、わたしを主と見ているわけじゃない。
警護対象は少し前に置いた方が視野が広くなってガードがしやすくなるんだ。
この古田織部、単に数寄者というだけで戦国大名になったわけではないからね。
皆虎の城壁が見えるころには、街道にチラホラと扶桑、三国志の物売りや商人らしい者たちの姿が見えるようになってきた。
信長が開けた穴は、少しずつだが風の流れを呼んでいるようだ。
スパイという身を忘れはしないけど、ちょっとワクワクしてきたかも。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん