高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ
08『血の繋がった下僕』
チ またか
声には出さないが、表情で分かってしまう。舞は舌打ちした。
三日ほど途切れていた手紙が下足ロッカーに入っていたのだ。
下足室に入って来た女生徒たちが、眩しそうに舞をチラ見して、何事かささやきながら靴を履き替えて階段を上っていく。
あの子たちは誤解している。
美少女の誉れ高き一年A組の芽刈舞が、ラブレターをもらってドキドキしている麗しい姿なのだと。
たしかに、この瞬間の舞は、梅雨晴れの花壇に楚々と咲き誇る花のように見える。
だが本心は怒っている――てめー、いいかげんにしろ!――
関わるの嫌だから、一つ向こうのロッカーの山を迂回して教室への階段を上がる。
「生徒会室に来て」
俺にだけ聞こえる囁きを追い越しざまに残して、舞は階段を上がっていった。
「挨拶もしてもらえねえんだな」
後ろから来た武藤が憐れむように言う。
「俺は正門のとこで、にこやかに『おはよう武藤君』だったぜ」
知ってるよ、俺以外には愛想のいい美少女を演じてるんだもんな。
「ま、腐るな。柔道部に入れば、芽刈さんは無理だとしても、彼女の一人くらいはできること請け合いだからな」
そう言うと、ポンと肩を叩いて先に上がっていきやがった。
憐れんでいるんだろうが、ちがうぜ親友。
俺は、挨拶されただけで一日ウキウキ過ごせるモブキャラなんかじゃねえ、血の繋がった下僕……じゃねえ、兄なんだからな。
生徒会室に入ると、舞が会長用の肘掛椅子にふんぞり返っている。
「ものを頼むんだったら、もうちょっと謙虚にしてろよ。パンツ見えるぞ」
「ウットシイのよ!」
忠告を無視して、テーブルの上に件のラブレターをバサリ。
仕方がないので、舞の斜め横の椅子に座る。
「こないだシブリン(渋谷林太郎、隣の一年B組の担任)がホームルーム中に手紙持ってきたじゃん、あれで、あたし宛てのラブレターだってバレバレ!」
あれはお前が悪い。関根さんがまとわりついてきたとはいえ、お前が落としたんだからな。
それをグッと抑えて結論を言う。
「こればっかりは、お前がなんとかするしかないだろ」
「そこをなんとかするのが、あんたの役目でしょーが」
「んなことしたら、兄妹だってバレてしまうぞ」
「だから考えたのよ!」
勢いよく肘掛椅子を旋回させ、覆いかぶさるように身を乗り出しやがった。
猿山のボスみたくマウント姿勢で結論を押し付けようという腹だ。
「なんだよ」
「あんたが、あたしに想いを寄せてるってことにして、このラブレターの主と対決するのよ! なんだったら柔道部の武藤君でも連れてってさ、威嚇とかしとくのもいいんじゃない!?」
「なんだ、その乱暴さは」
「青春てのは乱暴なもんよ! とにかくなんとかして!」
「後先考えろよ、んなことしたら、上手くいっても、次は俺との噂になっちまうぞ」
「それは平気。あんたとあたしだったら絶対月とスッポンだもん、そんときはあっさりフッたげる、誰も不審に思わない」
「評判落ちるぞ」
「なんでよ?」
「おまえを想って男と対決した俺をアッサリ振ったら、情のない女って思われる」
これは効く。舞はマイナスのイメージを持たれるのが、ひどく怖がる。
「じゃ、どーしろって言うのよ」
「自分でやれ」
「じ、自分で……」
めずらしくオタつく舞ではあった。