大橋むつおのブログ

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銀河太平記・277『モンゴル草原の馬に見惚れて』

2025-02-10 09:33:01 | 小説4
・277

『モンゴル草原の馬に見惚れて』 東鈴 





 成層圏航路から高度を下げると、モンゴルの平原。


 なだらかな草原が広がって放牧されている馬たちがあちこちに見える。草を食んだり軽やかにポクポク歩いていたり。母馬の後ろを仔馬が速足でついていたり。

 満洲にも馬は居るけど、ここほど馬格は良くない。馬の半分以上は人で言えば義体、あるいはロボットのオートホースなんだけど、距離を置いて眺めているとリアル馬と区別がつかない。

 その馬たちやモンゴルの草原を飽くこと無く見続けるテル博士。

 あいかわらず、キャノピーに両手とオデコをくっつけて、幼稚園児の遠足モード。

「イルカの時みたいにそばによって欲しいのよしゃ」

「ダメだよ、馬が驚いて暴走する。モンゴル人たちが困るからね」

「あ、しょうか……」

「モンゴルの大地は生きてるって実感できるものねえ」

 メグさんがフォローすると、小さくため息をついて言葉を続ける。

「うん……この景色から馬と草を消したら、地形的には火星の平原とおなじなのよしゃ。でも、やっぱり人が住む環境には緑と生き物の姿が欠かせないのよしゃ」

「そうねぇ……」

 テル博士の言葉に、思わず『火星の野生動物』を検索してしまう。

 赤い大地は荒涼として、時おり吹く風が赤褐色の砂を舞い上げ、その度に火星の骨格のような赤茶けた岩や礫が露出する。その岩の下や隙間から小動物がピョンピョン跳ね飛んで……これは生き物じゃない。チーチェだ。愛玩用に地球から持ち込まれたロボペットが野生化して、自己改造をしながら増殖する厄介者。

 戦争や事故で廃棄されたり放棄されたマシンやロボットから大小のパーツを切り離してボディーや大きなパーツを作る。そして義体やロボットの関節や開口部に取りついてICやら微細パーツをかすめ取ってPCを作ってはめ込み。完全に人の手から離れた個体を無限に作っていく。

 その過程で、いつの間にかマッパウィルスが生み出され、それがロボットや義体に感染してマッパ病を発症させ、多くの犠牲者を出した。そのチーチェは人の手によって武器化され第二次マース戦争まで引き起こした。

 最近、ようやく克服されて戦争も終わったけど……そのワクチンを作ったのが……ああ!? わたしの横で子どもみたいに外の景色を見ているテル博士なんだ!


 ああ、わたしってば、目の前のことばっかりに気を取られて、我ながら考察能力低すぎ!


「そこ……目的地」

 
 マヌエリトがボソッと呟いて、急制動をかけながら右旋回!

 ブチョ!

 キャノピーに張り付いたテル博士がキャノピーに圧着したようになり、メグさんはシートに掴まり、マヌエリトは泰然自若としたまま。筋斗雲は、テムジンのキャンプの端っこに着陸した。

 

☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 

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