大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 168『饒舌な孔明』

2024-03-04 11:50:39 | ノベル2
ら 信長転生記
168『饒舌な孔明』信長 




――かまわぬ、講堂にお通ししなさい――


 頭の緊箍児(きんこじ)がささやいた。

 緊箍児は一言主(ひとことぬし)で、木偶の三蔵法師を操っている。その一言主が言うのだから、言うことに間違いはない。俺が孔明を出迎えて対応しているうちに講堂に向かったんだ。

「いやあ、さすがは自由都市豊盃。噂には聞いておりましたが、豊盃寺、なかなかの名刹ですなあ」

 羽団扇を戦がせながら社交辞令を言う孔明。

「良き寺というのは、秩序を具現させております。塔は釈迦牟尼の墓を現し、金堂は、僧や衆生が拠り所とする本尊仏と脇侍を祀ります。人は目に見える形を通して物事を理解します。それゆえ3Dのフィギュアに過ぎぬ仏像に拝跪するのですが、その精神性は塔によって担保されます。それを回廊をもって取り巻き聖域となし、その回廊の結び目にあたるところに、修業・勉学の道場たる講堂を配置。回廊の外は俗世界。講堂は聖と俗を繋ぐ道場。その道場で三蔵法師猊下にお目にかかれるとは……この一事をもっても、猊下の御志がしのばれます。この秩序美と精神性は、必ずや日常に溶け込んで後世に受け継がれましょう。関羽将軍、張飛大将、この伽藍の中で、後世日常に溶け込むものは何か見当がつきますか?」

 突然に振られて顔を赤くする関羽、不機嫌になる張飛。

「いつかはいずれかの国主になることもあるでしょう、耳障りかもしれませんが、聞いて損のない豆知識です」

「「はは」」

「講堂は学校における集会所兼体育館、いま我々が迎えられたのが玄関、食事処である食堂(じきどう)、トイレを表す東司、みな寺院の構えからきた言葉ですよ」

「「はは」」

「それに『寺』という言葉も、元々は役所の建物を表す言葉なのです」

「え、そうなのかい軍師?」

「そうなのですよ張飛大将、元々は仏教を広めるにあたり、質素を旨とする僧侶たちは、役所の中古物件を払い下げてもらって道場にしたのです」

「へえ、それにしちゃ、この豊盃寺は豪華すぎやしないか?」

「おい、失礼だぞ張飛」

「いえ、大将の疑問はもっともです。寺は元来は中古物件だったので、信者の方々が寄付や寄進をして立派なものにしていったんです。この豊盃寺は、そういう寺と檀信徒の方々との良い関係が現れているんですよ。そういう、檀信徒の提供者を旦那と言います」

「ああ、酒屋の使用人が亭主を呼ぶときの」

「そうです、使用人にとっては仕事と給金の提供者ですからね。それが、いつしか提供者のことをドナーと呼ぶようになりました」

「臓器提供者のこともドナーと申しますなあ」

「そうです関羽将軍。それほどに、仏教というものは身近なものになるのですよ。ゲームなどのアバターというのも仏教の言葉なのですが、その話はまたということにしましょう。いささか喧騒にすぎましたな、申しわけない、ニイ少佐、いや悟空殿」

「いえいえ、傍で伺っていても勉強になり申すウキ」

 孔明は饒舌になることで自分の本性を隠そうとしている。サルも光秀もこのタイプだったが、孔明は、こういうことで力バカの関羽・張飛を教育し、かつマウントをとろうとしている。
 それに、三蔵法師を手中に収めることで、軍師としての野心を成就させようとしているんだ。

 天下三分の計

 さて、時期を伺い、いずれは魏と呉を凌いで天下を取るための方便であるのか、はたまた、真に三国志の安定と平和を祈ってのことなのか。

 俺の視点ははっきりしている。

 扶桑の国にとって、三国志が脅威にならぬか見定め、脅威になるようなら、その芽を摘み取ること。

 そうなんだが……どうやら、この状況を楽しんでいる自分が居る。

 見極めが付いたら、扶桑に戻り信玄や謙信、学園の乙女生徒会長ともども策を練らねばならないが、このまま一人でやってのけるのも面白いと思う。

 俺も根っこのところでは、妹の市を引き連れ、尾張の村々を駆けまわって、いつまでも遊んでいたいガキ大将なのかもしれん。

 回廊を左に折れて、講堂の右手に出ると、講堂の扉の隙間から明かりが漏れている。

 三蔵法師は、すでに準備万端のようだ。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

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