ピボット高校アーカイ部
毎朝の登校風景の中には、ザックリ言って二種類の生徒がいる。
二人以上で群れて登校する者と、一人で登校する者だ。
二人以上は、まあ問題ない。学校生活を、まずまず円満に過ごせていると言っていい。
問題は一人で登校する生徒。
たいていは、学校に友だちが居なくて人間関係が希薄な奴だ。
むろん、たまにだとか一時的なら問題ないんだけど、入学以来ずっと一人という奴は要注意、不登校になって引きこもりを発症してしまう奴もいるからね。
僕も、入学してしばらくは一人だったけど、そのうち出会ったクラスメートに「おはよう」と声を掛けられたり声を掛けたりしているうちに、一言二言喋れる相手が出てきた。週に一度か二度は正門で中井さんと「おはよう」の挨拶を交わして、昇降口までいっしょに歩いたりするようになったしね。
一人登校で、ちょっと目につくようになったのが螺子先輩。
先輩は学校に住んでいる……ような気がしていた。
先輩は、首が一つでボディーが二つ。部活体と日常体の二つで、部活に入る時にボディーを替えていた。
どうも、部活体と日常体ではスペックと個性が違う。
その日常体をろってに貸してやったもんだから、先輩は四六時中部活体。
部活体はアグレッシブというか積極的というか元気がいい(^_^;)
「おい、道一杯に広がったら通行の邪魔だろ!」「こら、赤信号だぞ!」「スマホ見ながら歩くんじゃない!」
登下校は、こんな調子だし、学校に着いてからでも、小姑のようにあちこちで文句を言っている。
「先輩、もうちょっと穏やかに」
「そうか、わたしは、いつもの調子だぞ」
「先輩、日常体のときは、もっとおしとやかでしたから……(^o^;)」
「あ……ああ、そうだったなあ。いかんいかん」
「分かってもらえればいいんです」
「しかし、同輩どもの日常と云うのは、ちょっとだらしがないぞ」
「こんなもんですよ、いまの高校生は」
「そうなのか」
「それに、日常体の時は、もっと女の子らしい喋り方してましたから。そんな感じで喋ってちゃいけませんよ」
「そ、そうか、あ、いや、そうなのね。螺子、気を付けるわ……こんな感じでいいのかしら?」
「ちょっと気持ちわる……」
「なんだと!?」
「あ、いえ、なんでもありません!」
「まあ、たしかに話しかけてくるやつは居なくなった感じがしないでもない……」
「自覚あるんじゃないですか!?」
「いや、日常体の行動は記録としてはメモリーに残っているんだがネットニュースのように簡略でな、どう振舞ったか、どう喋ったとかの情報は乏しいんだ」
「まあ、先輩が気にならないんだったらいいんですけど……ちょ、なんで手を繋ぐんですか?」
「いや、わたしが踏み外しそうになったら、強く握ってくれ。そうそれば、言う前、やる前に気が付く」
「だめですよ、手を繋いで登下校してる奴なんか、女の子同士でもありませんからぁ」
「つれないやつだなあ」
「ほ、ほら、小学生が変な目で見てます!」
「お前たちだって、幼稚園の頃はおてて繋いで、お散歩してただろーが!」
「子どもにからんでどうするんですか!」
「すまん、自戒する」
「いいですか、学校に入るまでは口をきいちゃいけません」
「分かった」
ジジジジ
変な音に先輩の顔を見ると、口がチャックになって閉まっている。
「そいうギミックはしないでください」
「じゃ、持っていてくれ」
「え……わ!?」
先輩は、チャックを止めたかと思うと、口を拭って、唇を外して寄こした。
「もう、シュールなことはしないでください!」
『おもしろくないか?』
手の中で、唇が喋る。初対面だったら卒倒している。
なんとか大人しくさせて、校門が見え始めた時、先輩は一人の生徒に目を停めた。
「あいつ……男なんじゃないか?」
「あ……」
先輩が目を停めたのは、最近女の制服を着て登校し始めた一年の男子だ。
先生たちはいい顔をしないんだけども、ジェンダーとかにうるさいご時世なので、正面から言われることがないんだ。
「いじっちゃダメですからね!」
「ああ、分かってる」
なだめながら、そいつを追い越そうとしたら、別の女生徒がそいつの前に立ちふさがった……。
☆彡 主な登場人物
- 田中 鋲(たなか びょう) ピボット高校一年 アーカイ部
- 真中 螺子(まなか らこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
- 中井さん ピボット高校一年 鋲のクラスメート
- 田中 勲(たなか いさお) 鋲の祖父
- 田中 博(たなか ひろし) 鋲の叔父 新聞社勤務
- プッペの人たち マスター イルネ
- 一石 軍太 ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン) 精霊技師