大橋むつおのブログ

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鳴かぬなら 信長転生記 103『時間よ停まれ! 君は美しい!』

2023-01-18 13:24:36 | ノベル2

ら 信長転生記

103『時間よ停まれ! 君は美しい!』織部 

 

 

 根っから染みついた武士ならば腹を切るところかもしれない。

 

 なんせ、助けたはずのわたしが馬の尻に乗って、救出されたはずの茶姫が手綱を握っていたんだからな。

「替わってくれ、わたしの方が速い!」

 追手の気配を感じて、直ぐに茶姫は言った。

「心得た!」

 わたしは左に、茶姫は右に体を寄せて二呼吸するほどの間は二人で手綱を握った。

 セイ!

 次の瞬間、掛け声と共に茶姫は左足を垂直に跳ね上げ、わたしを跨いで馬の鞍に収まった。

 その刹那に目の前に屹立した美脚には震えがきた!

 

 時間よ停まれ! 君は美しい!

 

 キュッと内側に握られた爪先は、脚を屹立させるには理にかなった形なのだが、それは女が絶頂した時のそれと同じだ。甲は浅く土踏まず美麗にくびれ、足首もそれに倣い、ふくらはぎと太ももの線の豊かさとなだらかさを荘厳している。アゲインストの風が薄物の胴着を靡かせ、太ももの末が尻のまろみに昇華され、ほとんど足の付け根までが露わになったところまで想像される。

 実際は、三国志の衣装で下半身は褲子(くうず)を穿いているので生足が見えているわけではないのだが、旺盛な審美眼は褲子の布などは素通しにしてしまう。

 いや、なにが言いたいかと言うと、この審美眼が無ければ、救出者たる武士として手綱を譲ることなどできなかった。

 それでも、曹素手練れの追手を振り切ることは難しく、境の森を出れば双ヶ岡まで一面の草原。たとえ、迎えの軍勢が控えていようと、一戦交えざるを得ないと覚悟した。

 武蔵が飛び出してきた。

 太刀は帯びずに、脇差一本の軽腰、両腕を蒸気機関車のロッドのように激しく屈伸させ、一直線に丘を駆け下りてきた。

 

 チェストーー!

 

 あの武蔵が、薩摩示現流の掛け声で境の森に対した。

 追手たちは、境の森を出ることなく引き返した。

 ほんの先月には、カラコンを装着してほとんどカミングアウト。皆虎の街ではアイドル以上の扱いだった。

 それが、役目を自覚し見敵と同時に元の武蔵に戻った。

 いや、元以上。いたずらに剣を振り回すのではなく、威嚇に止め、わたしと茶姫の保護を最優先にした。

 並の剣術馬鹿にできることではない。

 並の剣術馬鹿なら、追手を皆殺しにしている。

 部下が皆殺しにされて黙っているような曹素ではない。いや、曹素のその上、曹操に扶桑との決戦に踏み出させてしまう。三国志の民草も、扶桑の英傑たちも戦は望んではいない。

 そのことを理解したうえで、武蔵は行動した。

 

 元々なのか成長したのか、扶桑の転生という属性はすごいと思う。

 

「そうか……それなら仕方がない、歓迎会は少し先ということにしよう」

 信玄が頭を掻いた。

「そうね、茶の湯もそうだけど、和式のおもてなしは正座が基本だものね、学園の乙女生徒会長とも話し合って決めるわ」

 そう言って謙信がノーパソを閉じた。

「それがありがたいです、茶姫さんもお疲れだし、まずは心も体も休めてもらうのが一番です。いろいろおもてなしを考えていただいた様子。わたしも感謝します」

 部室の壁には、茶姫歓迎の資料やらプランが張られていて、すでに、歓迎の茶席も信長を呼んで予行済みとか。

 本気で準備していたことがよく分かる。

「天下布部、勝手に決められては困ります」

 石田三成が断わりも無く入って来て、挨拶もせずに苦情を言う。

「カリカリするな三成、ファジーにやらんと若禿になるぞぉ」

「今川会長も、予定を組んでおられます」

「いいじゃないの石田さん、生徒会も真剣に取り組んでいたという事実は残るんだから」

「そういうことではないんですよ謙信さん。執行部に一言も無しに方針転換されるのが困るんです」

「ああ、そうか。この信玄としたことが不覚だった! じゃ、今から今川会長のところに行くわ。そうだ、せっかくだから『ほうとう』の味噌煮込みで一杯やろう」

「あ、ちょっと信玄さーん!」

 あわただしく信玄と三成が出て行って、首を戻すと謙信と目が合った。

「歓迎会が終わった後の話がしたい……」

 どうやら休ませてはもらえないようだ……まあ、望むところではあるんだけどね。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 


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