滅鬼の刃 エッセーラノベ
うっかり同じテーマで二回書いてしまいました。
23回と28回、タイトルも同じ『元日の新聞』で、いやはや焼きが回りました。
28回目を書き終えて、三日目に栞に指摘されました。
「え、そんな馬鹿な……」
「ほらぁ(^_^;)」
「あちゃ~~」
それで、今日は『二回目』をテーマに書いてみようと思い立ちました。
五十数年前、うかつにも高校二年を2回やってしまいました。
早い話が落第したわけです。
当時、生徒の身でありながら高校演劇の役員をやっていたわたしは、年度末の役員会を終えて帰宅して、茶の間の沈鬱な空気に――ヤバイ――と思いました。
小学校に入って間がないころ、いつもとは一本違う道に入り込んで、大きな野良犬と目が合ってしまったことがあります。あの時の――ヤバイ――に似ていました。
お袋は、担任の先生と、もう一人えらい先生が来て留年を宣告していった事実を目を合わせることも無く伝えました。
親父は、こんな話をしました。
わたしには、三つ年下の妹がいたと言うのです。
わたしには三つ年上の姉がいて、ずっと、その姉との二人姉弟だと思っていました。
姉は、勉強も出来て、弟のわたしから見ても器量よしで、しっかり者の姉ちゃんでした。
ところが、わたしが生まれた三年後、三人目が宿ったことが分かって、親父とお袋は堕ろすことに決めました。当時の家計では三人目を育てることは無理と判断したんですね。
「……女の子だった」
そんなつもりは無かったのかもしれませんが、言外に、女の子が生まれていたら――きっと落第などしないいい子だったろう――という、強烈な残念さを感じました。
高校二年というのは修学旅行のある学年です。ご丁寧に、二度目の修学旅行にも行きました。
わたしが親なら「バカモン! 二回も修学旅行に行くやつがあるか!」と叱っていたでしょう。
親父は、あっさりと二回目の修学旅行費を一括で払ってくれました。
修学旅行は二回目も同じ信州方面。同じコースを同じバス会社のバスで、あれ?っと思ったらバスガイドさんまで一回目と同じ人でした(^_^;)。
留年と修学旅行に関しては面白い話もあるのですが、それは、また別の機会ということにします。
二回目というテーマに戻ります。
ちょっとした運命のいたずらで孫娘の栞といっしょに暮しています。
娘の娘で、正真正銘の孫娘なのですが、早くに引き取ったので、なんだか子育ての二回戦という感じです。
栞も「二回目の父親だ!」などと言って、境遇を面白がっているように言います。
わたしも「二回目の娘だ!」と言って調子を合わせております。
これも踏み込むと奥が深すぎますので、主題に入ります。
主題は「二回目の人との接し方」です。
大人になってからでも半世紀以上生きておりますと、初対面の人とはソツなく接するようになります。あるいは出来るようになります。
「どうも、お世話になります」「大橋と申します」「武者走などと大層なペンネームですが」「いやあ、今日は暑いですねえ」「お噂はかねがね」「ごいっしょさせていただきます」「お隣り、よろしいでしょうか」「あ、そうだ」
切り出し方はさまざまですが、切り出して、その反応で(あまり話しかけない方がいい)とか(この話題でいこう)とか(こっちの話の方が)とか感じながら接していきます。
友だちがイタ飯屋を経営していて、仕事の帰りなど看板までいたものですが、テーブルが二つに、カウンター席が八つほどでしたので、ちょっと客同士の距離が近いのです。
その客も、友人であるマスターの友だちや知り合いが多く、こちらもマスターの友人。場合によっては「こいつ、古い友だちで大橋っていうんだ」的に振られます。
こういう時に「あ、ども」だけでは、なんとも素っ気なさすぎるので、まあ、互いに気を遣ってしまう訳ですね。
それで、話題を探るわけです。
持病で、月に一回病院に通っていました。十年ほどはお袋の車いすを押して週一回病院に連れていきました。二年ほどは父を別の病院に、老人ホームにも通いました。
待っている間に、隣の人と話になることもあります。こちらは馴染みの患者、あるいは付き添いなので、病院や施設の事情にも詳しいので、時どき訊ねられます「薬局はどちらでしょう?」「待ち時間長いですか?」「問診票のここ、どう書くんでしょう?」「トイレどこでしょう?」「ちょっと見ててもらえます?」など、ちょっとしたやり取りなのですが、病院の待ち時間は一時間を超えることはザラなので、控え目にしながらも話すことがあります。
そういう人たちと、二度目に会った時が、ちょっと厄介です。
「あ、先日は……」
向こうから話しかけてこられたり、話しかけるのではなく目礼などされると、話さざるを得ません。
そうすると、もうなおざりな話では済まないような気になって、話題を考え、返事を考えしたりできりきり舞いになってしまいます。お天気の話がいちばん無難なんですが、そうそうお天気の話ではもちません。趣味の話は押しつけがましいし、そうだ、前回はなにを話したっけ、えと……えと……。
一番困るのは――え、知ってるようなんだけど、どこで会ったかな? 勘違いかなあ?――とか悩みます。
あ、二回目なんだけど名前が出てこない! えと……お名前は……(-_-;)
「あ、先日はどうも(^_^;)」と、適当に先手を打って「え、初めてですが?」的に返されたら目も当てられません。
間違いなく――適当なやつだなあ――と思われます。
さらに困るのは、こちらが最初気づかなくて、相手が先に気付いて――失礼なやつ、シカトしやがって――と気まずくなる時ですねえ。
電車の向かいのシートで、なんだか不機嫌な年寄りが座っていて――なんだ、この爺さんは?――と視線を避け、しばらくしてから――あ、先輩だ!――と気づいたあとの気まずさ(-_-;)。
ププ( ´艸`)
ここまでキーボードをたたいていると、後ろで二回目の娘が噴き出しました。
「もう、神経質な文章書いてぇ、もう、お風呂入ってしまってよね」
「え、晩御飯まだだぞ」
「え……」
真顔になる二回目の娘。
「え、あ……ハハ、うそうそ」
冗談でかましたのですが、翌朝、学校に行くまで心配そうな顔をされたのには参りました(^_^;)
☆彡 主な登場人物
- わたし 武者走走九郎 Or 大橋むつお
- 栞 わたしの孫娘