真凡プレジデント・58
さすがは柳沢先輩、わたしが倉庫の整理をやっているうちにやっつけてしまった。
むろんエアコンの取り付けよ。
しかし、様子がおかしい。
エアコンが付いてるわりには蒸し暑く、扇風機すら回らずに生徒会室の窓は全開になっている。みんな汗を流してペットボトルのお茶や缶コーヒーなど飲んでいる。
え、あ、どうして?
表情を読んだのだろう、柳沢先輩が解説してくれる。
「設置許可と電気代の問題なんだとさ」
「なんですか、それ?」
「エアコンは設置許可が必要で、電気代もバカにならないから、運転の許可が下りないの」
お茶を飲みつくした綾乃が補足する。
「さっき事務の人がやってきて、宣告された」
「えと……わたしがいけないの」
「なんで、なつきが?」
「なつきは悪くないって」
「だって……」
「じつはね、エアコンつくのが嬉しくって、なつきがお茶を買いに行ったのよ。そしたら、自販機が故障してお茶が出てこないから……」
「あ、あ、だから事務所に知らせに行ったのよ」
「自販機の故障なら食堂のおじさんでしょ」
「ま、それで、あまりになつきが嬉しそうなもんで『なにかいいことあったのかい?』と聞かれてさ」
「『生徒会室にエアコンが付くんでーす(^▽^)/』って、言ってしまった……」
なるほど、それで視察にこられて難癖付けられた……か。
「でも、とりあえず点けてみるとか?」
「だめだよ、配電盤のブレーカーごと電源を落とされてる」
「エアコンを撤去しない限り電源も使わせないってさ」
杓子定規な学校にも腹が立つけど、汗を流しながらもヘラヘラお茶を飲んでる柳沢先輩もどうかと思う。
「じゃ、どんな手続き踏めばエアコンを点けられるんですか?」
「おーーーー」
「なんですか先輩!?」
「いつも取り留めのない顔だけど、怒ると、けっこう美人じゃないか」
先輩のオチョクリに執行部の三人の視線が集まる。
「あーー確かに……写真撮っていい?」
「困ります」
「あ、もう撮っちゃった」
「あの、だから手続きは?」
ダメならキチンと正面から立ち向かってやろうという気になっている。
「我々から生徒会顧問に言って、学校の運営委員会に掛けられて、年間の予想消費電力の見積もりなんかも添えて職員会議で許可が下りなきゃいけないんだぞ」
う~ん、ちょっとまどろっこしいけど、やってやろうという気になって来た。
「しかしな真凡、運営委員会も職員会議も議案が詰まってるから、取り上げてもらえるのはいつになるか分からんぞ」
「え、そんなあ」
「それに、そのプロセスで代議会とか、生徒会側の評決を得てないとかで横やりが入ると、俺は見ている」
「ニヤニヤ笑わないで言ってもらえます!」
我ながら言葉に棘が出てきた。
「学校って役所だからさ、特に事務は、モロ行政職だからな、気に入らないとなったらいくらでも邪魔するさ」
「だったら、どうしろって!?」
「よし、俺が行ってくるよ。汗も引いたし、真凡のレアな表情も見られたしな」
先輩はグシャリと空き缶を握りっ潰して席を立つ。
わたしやお姉ちゃんのように手を切らないところがシャクだ!
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
- 橘 なつき 中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 柳沢 琢磨 天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
- 北白川綾乃 真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
- 福島 みずき 真凡とならんで立候補で当選した副会長
- 伊達 利宗 二の丸高校の生徒会長