大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・74『自習時間、教頭先生の話から・1』

2021-04-19 08:51:51 | ライトノベルセレクト

やく物語・74

自習時間、教頭先生の話から・1』    

 

 

 日帰りハワイ旅行!

 これだけを聞いたら、怪しげな日帰りパックツアー。

 いくら世間知らずな中学生でも、ハワイは日帰り旅行の範疇ではないことくらいは分かる。

「鳥取県に羽合温泉というのがあってね……」

 と、話が続いて、クスクスと笑い声がさざ波のように起こる。

 三時間目の公民の先生がお休みで、教頭先生が自習監督にこられて漫談を始めた。

 ふつう自習時間には手空きの先生がやってきて、たいていプリント一枚くらいの自習課題をやらされる。

 自習課題が間に合わなかったのか、手空きの先生がいなかったのか、教頭先生が暇だったのか……日ごろ、職員室の奥の席で電話番やら、書類の作成などに追われてる、どっちかというと仏頂面しか見たことが無い教頭先生が教壇に立っているのは新鮮で、これだけで目が覚める。

「教頭というのは、法律でも週七時間は授業できることになってるんだ。それに、元々は理科を教えていたしね」

 という前振りがあって、ハワイ日帰り旅行の話になった。

「その羽合温泉でもなくて、本物のハワイに日帰り旅行できる日が、必ずやってくる!」

 そう言うと、教頭先生は日本とアメリカに挟まれた太平洋の地図を書いて、ハワイ諸島をチョークで囲って、矢印を付けて日本の伊豆半島のあたりまで伸ばして、ビックリマークを三本も添えた。

「実はね、ハワイというのは年間十センチくらいの割合で日本列島に近づいていて、何億年かすると、本当に日本列島と繋がってしまう!」

 そういう落ちのある話から、地球と言うのはいくつかのプレートに分かれていて、そのプレートは絶えず動いているという学問的な説明になっていく。

 なんせ、まだまだ中学生。

 へえーー  ほーー と感心しきり。

 教頭先生は、平教師のころから授業の上手い先生だったんだろうなあと思う。

「実は、伊豆半島はフィリピン、フィリピンはここ(地図にフィリピンを書き足す)。何億年もかけて日本に寄ってきて、そしてぶつかった!」

 伊豆半島の付け根に赤いチョークで火花のエフェクトが点く!

「その時の圧力と熱で出来たのが箱根山と富士山。ドッカーーーン!」

 アハハハハ

 教室のクスクスのボルテージが上がる。

「ハワイが載っているのを太平洋プレート、伊豆半島が載っているのをフィリピン海プレートと言う!」

 赤チョークが、二つのプレートを縁取る。

「そして、ぶつかられている被害者の南半分をユーラシアプレート、北半分を北米プレートと言う」

 なるほど、こいうドラマのように言われると、スッと入って来る。

「ぶつかったところに、その圧力で火山とか断層ができるというわけ。有名な断層は……」

 このあたりから、興味を失っていく子がいるのが、気配で分かる。

 すると、教頭先生は話題を変えた。

「君たち、弥生式土器って知ってるよね? 昔の人が作って、時々遺跡なんかから発見される……ほら、こんな土器」

 くるくるとふくよかな弥生式土器の絵を描いて、大きく弥生式土器と名前を書く先生。

「なんで、弥生式って言うか、知ってる?」

 なんか盲点を突くような質問。

 なんで? 弥生さんという人が発見したから?

「最初の弥生式土器が発見されたのが、東京は本郷の弥生町だったから!」

 なるほど。

「だから、渋谷で見つかっていたら渋谷式、羽合温泉の羽合で見つかっていたら羽合式になっていた」

 そうか、こういうのは発見された場所の名前が付くんだ。

「で、さっきの断層なんだけど。こういうのは日本中にあってね、ほら、学校のある三丁目を東に向かうと、二丁目と一丁目の間に崖があるだろ?」

 あるある、てか、わたしは毎日、その崖の坂道を下って学校に来ている。

 直球で自分の通学路の話になったので、ついつい身を乗り出してしまう。

「あれは、小さいけど立派な断層でね。専門的には二丁目断層と呼ぶんだ」

 アハハ

 あまりにローカルな呼び方に、また笑いが起こる。

「断層というのは、地球の圧力が集中しているところでね、磁石が北を指さないとか、重力が乱れるとか、いろいろ異変が起きやすいところでね。そのせいか、古くから妖怪とか怪異とかの不思議なことの言い伝えがあって、それを鎮めるために、崖を登って横に入ったところにお地蔵さんが祀られている……」

 教頭先生の話は、そのまんま、わたしの周囲のあやかしごとの話になって、耳をそらせなくなってきた……

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« らいと古典・わたしの徒然草... | トップ | 真凡プレジデント・58《柳... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ライトノベルセレクト」カテゴリの最新記事