馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
012:曙谷 初めてのダンジョン
曙の谷に三人は着いた。
差し渡し50メートル、深さは平均5メートル、深いところでも8メートルほど、谷底への傾斜もさほどには無く、幅の狭い盆地といったところだ。
谷底には森というほどではないが、所どころに木がまとまっているところがある。そこを避けて通れば手ごろなハイキングコースと呼べるくらいにのどかで、そうと言われなければ分からないくらいの穏やかさだ。
「あの木がまとまっているところがダンジョンだ。いちおう森と呼ばれているが、書類上の名称でな、始まりの町以外で言うと馬鹿にされる。ダンジョン以外でもモンスターは出るが確実ではない」
「森を通るんですね」
「サッサとやっちまおうぜ……って、どこに行くんだ?」
気の早いアルテミスが下りようとすると、プルートは谷への坂道ではなく、ちょっと横の岩のところに向かった。
「なにかの石碑ですかぁ?」
「メニュー表だ」
プルートが手で突くと、グルンと石碑が回ってメニューが現れた。
「固定が甘いんで、時どき裏向きになる……日替わりでなあ、何が出ても大したことはないんだが……」
メニュー表には『Kスライム』と『Kウルフ』と書いてある。
「よし、時どきKスケルトンというのが出るんだが、下手な狩り方をすると粉々になる。服や装備につくと面倒なんだ」
「ああ、クリーニングは町まで戻らなきゃですものね」
「行くぞ」
プルートは迷わずに一番手前の森の前に飛び降りた。
「ちょ、待てよオッサン!」
続いてベロナとアルテミスが駆け下りた時には、すでにプルートは森の中に踏み込んでいる。
「闘志満々ですね!」
「え、あれ?」
ザザザァ
飛び込んだばかりのプルートが飛び出してきた。
「二人とも離れろ! Kスケルトンだ!」
ザザ!
三人が跳び退るのとモンスターが飛び出してくるのが同時だった。
「スケルトンは居ないんじゃねーのか!?」
「よく見て、あれは……」
「Kオオカミがスケルトン化したものだ。アルテミス、距離をとって矢を射かけろ!」
「おお!」
「て、こっちに向かって来ます!」
「儂が引き付ける、ベロナは防御にまわれ!」
「はい!」
パシ!
瞬間凍結したような音がすると、アルテミスを庇うベロナの前に半球状の防御結界が現れた。
シュシュシュシュシュ!
アルテミスが一瞬で五本の矢を射かける。
パッシャーーン!
あやたず五本の矢が付き立って、スケルトンオオカミは粉々になって飛び散った。
「やったあ!」「やりましたあ!」
初手柄に舞い上がる二人だったが、プルートの表情は険しかった。
「Kスケルトン如きに五本は多すぎる、見ろ、粉々になって、少し被ってしまったぞ」
「あ、ごめん」
「ベロナの防御も優雅すぎる」
「え、優雅じゃいけないんでしょうか?」
「半球状のバリアはきれいだが、不慣れだと脆い。K級のモンスターだからいいが、上級のモンスターなら卵の殻のようにぶち破られる。当分は亀甲バリアでいけ」
「は、はい」
「さあ、次はKスライムだ」
「おお!」「はい!」
その後は次の森でKスライムを簡単にやっつけた三人だったが、やはり初めてのことで爆砕したスライムを浴びてしまってベトベトになってしまう三人だった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- アルテミス アーチャー 月の女神
- ベロナ メイジ 火星の女神 生徒会長
- プルート ソードマン 冥王星のスピリット
- カグヤ アルテミスの姉
- マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
- アマテラス 理事長
- 宮沢賢治 昴学院校長
- ジョバンニ 教頭