大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・24『むこうの幸子ちゃんを救出』

2018-09-19 06:42:18 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・24
『むこうの幸子ちゃんを救出』
    


 満場の拍手だった!

 生徒会主催の新入生歓迎会は例年視聴覚教室で行われる。
 しかし、今回は二つの理由で体育館に移された。
 飛行機突入事件で、視聴覚教室が使えなくなったこと。

 そして、今年は大勢の参加者が見込まれたからだ。

 去年、俺が新入生だったときの歓迎会はショボかった。

 なんと言っても自由参加。ケイオンもまだスニーカーエイジには出場しておらず、それほどの集客力が無かった。
 今年は違う。
 加藤先輩たちが、昨年のスニーカーエイジで準優勝。これだけで、新入生の半分は、確実に見に来る。
 そして、なにより幸子のパフォーマンスがある。
 路上ライブやテレビ出演で、幸子は、ちょっとした時の人だ。二三年生の野次馬もかなり参加して、広い体育館が一杯になった。
「わたしらにも一言喋らせてくれんかね」という校長と教務主任の吉田先生の飛び入りは、丁重にケイオン顧問の蟹江先生が断ってくれた。普段はなにも口出ししない顧問で、みんな軽く見ていたが、ここ一番は頼りになる先生だと見なおした。

 幸子は演劇部の代表だったが、ケイオンが放送部に手を回した。

――それでは、ケイオンと演劇部のプレゼンテーションを兼ねて、佐伯幸子さん!
 

 満場の拍手になった。
 

 最初に、幸子がAKRの小野寺潤と、桃畑律子のソックリをやって、観衆を沸かし、三曲目は、最近ヒットチャートのトップを飾っているツングの曲を、加藤先輩とのディユオでやってのけた。
 もちろんバックバンドはケイオンのベテラン揃い。演劇部の山元と宮本の先輩は、単なる照明係になってしまった。

 結果的には、ケイオンに四十人、演劇部には幸子を含め三人の新入部員。正直演劇部には気の毒だったが、気の良い二人の先輩は「規模に見合うた、部員数や」と喜んでくれたのが救いだった。

――お兄ちゃん、生物準備室まで来て。

 そのメールで、俺は、生物準備室に急いだ。

 用があるなら、幸子は自分でやってくるはずだ。きっと、なにかあったんだ。

「おい、幸子」
「まだ、入っちゃダメ!」
 中で衣擦れの音がする……例によって着替えているんだろうか。それなら進歩と言える。いつもは大概裸同然だったりするから。
「いいわよ」
 やっと声がかかって、準備室に入るとラベンダーの香りがした。昔のSFにこんなシュチュエーションがあったなあと思った。
「ドアを閉めて」
 そこには、二人の幸子が立っていた。
「どっちが……」
「わたしが、こっちの幸子。で、こちらが向こうの幸子ちゃん。やっと呼ぶことができたの」
 二人とも無機質な表情なので、区別がつかない。とりあえず、今喋ったのが、うちの幸子だろう。
「義体化される寸前に、こっちに呼んだの。麻酔がかかってるから、立っているのが精一杯」
「義体化?」
「危険な目にあったら、自動的にタイムリープするように、リープカプセルを幸子ちゃんの体に埋め込んでおいたの。こっちの世界に居ながらの操作で、手間取っちゃったけどね。それが、このラベンダーの香り」
「なんで、この幸子ちゃんが、義体化を……事故かなんかか?」
「ううん。向こうの戦争に使うため。幸子ちゃんを作戦の立案と指令のブレインにしようとしたのよ。わたしとほとんど同じDNAだから狙われたのね」
「おまえは命を狙われてるのに……」
「それが、6・25%の違い。この幸子ちゃんは、わたしより従順なの……」

 その時、準備室のドアが音もなく開いた。

「だれ!?」
 こっちの幸子が一番先に気が付いた。
「……やっぱ、サッチャンは鋭いわね」

 そこには、甲殻機動隊副長の娘のねねちゃんが立っていた……。
 



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