まりあ戦記・049
久々に通学カバンを開ける。
ハンドル(取っ手)に汚れの膜が張っているような感触。ファスナーも微妙に硬い。
しばらく学校に行っていないので、脂や汚れやらに雑菌が繁殖したのかもしれない。アルコール消毒してもいいんだけど、学校に着くまでに手に馴染ませれば、すぐに元に戻るだろう。
生きてた頃のお兄ちゃんみたいに無精。
でも、いいんだ。
ちょっと、あわただしく過ぎて行った月日を感じてみたい。
ここに来てからは、ヨミとの戦いに明け暮れて、時間の感覚が無くなるほどのあわただしさだった。
みなみ大尉にあたって脱走したり、担当の中原少尉を困らせたり。
昨日、カルデラの切り欠きまで足を延ばしてナユタに出会った。
ナユタは四菱のソメティのパイロット。いきなりヨミとの戦いに割り込んできて撃破すると、子どものようにハシャギまくって、正直ムカつくやつだった。
そいつが、切込みに自転車を飛ばすと「せんぱーい(^▽^)/」と懐きながら付いて来て、石英の穴場を教えてくれたりして、無遠慮な奴だと思ったけど、ちょっといい奴だと思ったりした。
久々の学校なので、気合いを入れてお弁当を作る。お弁当箱は、みなみ大尉からもらったケティちゃん。ちょっと子どもっぽいけど、ケティちゃんは中高生にも人気だ。これぐらいハズレたアイテムを使っている方がクラスのみんなには馴染みやすいだろ。
スマホを出して自分の3Dホログラムを出す。
1/6サイズの自分の姿が浮かび上がる。これだと鏡じゃや見えないところまでチェックできる。ちょっとナルシスティックだけど、久々の学校なんだからね。
……うん、ホログラムで見る限りは今どきの女子高生だ。
二度ばかり肩の力を抜いて「よし」と声をかけて玄関へ、ノブに手をかけようとすると……
ピンポーーン
後ろでドアホンの鳴る音。
どっちにしようと悩んでドアスコープを覗く。
ドアホンの映像はフェイクをかますことができて、出てみたら全然ちがう人だったりするので、みなみ大尉から、必ずドアスコープでも確認するように言われているのだ。
ドアスコープの向こうに居るのは中原光子少尉(^_^;)。
ほら、わたしの監視役というか世話係というか、担当さん。訓練中にかんしゃくを起こしては、何度も困らせてしまった。軍用のトレンチコートを着て律儀に敬礼して、精一杯の作り笑顔。全身から任務に忠実であろうとする軍人精神と、持って生まれた人の良さがせめぎ合っていて、気の毒という気持ちと面白いという好奇心の両方が湧いてくる。
ドア一枚隔てて、五十センチに満たないところに立たれては居留守もできないよ。学校に行く時間も迫ってるしね。笑顔を作ってドアノブに手を掛ける。
ガチャリ。
「中原さ……」
笑顔が引きつった。
ドアスコープからは死角になったところに金剛少佐が立っているではないか(;^_^。