まりあ戦記・044
四菱のCM撮影に付き合ったので三十秒のロスが出た。
むろん進んで付き合ったんじゃない、司令さえ従わざるを得ない軍産複合体への屈折したイラ立ちからであった。
えーーと……。
三十秒前には目視できたヨミの姿が見えない。
0.5秒遅れて、バイザーコンソールの隅、ヨミの存在を示すドットに気づいた。
三十秒前とは逆方向の丘の陰になっていたのだ。
なんで?
これまでの戦闘でヨミを見失ったことなど無かった。ぬかったか!?
CM撮影と、それに付き合ってしまった自分がが恨めしい。
一瞬思ったが、すぐに気を取り直しアサルトライフルを構え直す。
ゴーーーーーーーー!
構え直したライフルの先端を何かがかすめた。
ドーーーーーーーン!
反射的に首をすくめると、丘の向こうから衝撃波がやってきた。
衝撃波に続いてヨミが煙を吐きながら燕のように急上昇、その後ろを赤い人型兵器が追っていく。
人型兵器はウズメよりも二回りほども小さく、蜂を思わせる軌道を描きながらヨミに迫っていく。両手で抱えたアサルトはウズメのそれよりも小型に見えたが、それでも子供が大人用のそれを構えているような滑稽さがある。
それに、なによりそいつはバイザーコンソールには映っていない。
なに? ステルス!?
ステルス効果はヨミに対しても有効なようで、ヨミが発する対空ビームは大きくバラけている。
そいつはヨミと並行になって初めてアサルトの引き金を引いた。
ドドドドドドドドド!
速射タイプのアサルトは確実にコアに当てているようで、シールドの破片が飛び散る。
ヨミのシールドは高いリペア機能があるので、小口径の弾を食らわせても回復が早い。早いが、この局面だけを見ていると、圧倒的にそいつが強いように見える。
数発がリペアの間隙を縫ってコアを貫通、ヨミのコアからは血しぶきが上がり二筋ほど煙が尾を引いている。
――あれじゃ、バレルが焼きついて使い物にならない、弾だって……――
懸念した通り、そいつはアサルトをパージして、直近のポッド目がけて急降下に入った。
――なにボサっとしてんのよ! 次はあんたの番でしょ!――
え、ええ!?
いきなり、そいつの思念が飛び込んできて、まりあは、そいつとヨミの間に割り込んだ。